破れた本、セロハンテープで補修しないで 図書館資料修理のプロ「かなり大きな悩みの種です」

金井 かおる 金井 かおる

 小説家で司書の佐伯庸介さん(@saekiyou)がツイッターに投稿した図書館本の豆知識が注目を集めています。

 「#意外にこれ知られてないんですけど 図書館の本が破損した場合、利用者は直さなくていいんですよ。補修は司書の仕事ですし、セロハンテープとか貼ってしまうと劣化して本の寿命を縮めてしまうので(剥がし液使って剥がします)。だからそのまま返してくれー!」

 佐伯さんの投稿には2万のいいねがつき、図書館利用者からは「知らなかった」、現役の図書館スタッフからは「知ってほしい話」「『破れてました』のひと言で助かる」「善意で修理してるつもりでも、かえって悪化させていることがあります」「剥がすの大変なんです」などの声が寄せられています。

本にセロハンテープを貼ると…

 セロハンテープは1930年、アメリカで初めて発売され、日本では5年後の1935年に商品化されました。工作に使ったり、書類を貼ったり、家庭でも職場でもなくてはならない便利なアイテムです。しかし、本などの紙に貼ると経年劣化で変色し、紙同士がくっつくことも。長期保存を目的とした図書館の本の修理には向きません。

図書館「善意は図書館員が受け継ぎ修理します」

 全国の公共図書館のホームページを検索してみると、多くの館で「本が破れたら家庭での補修はしないで」「セロハンテープは短期間で変質するため本が傷みます」「壊れている本を見つけたら図書館の人に教えてください」など注意を呼び掛けています。

 三重県にある桑名中央図書館のスタッフブログでは、「返却本の確認をしているとときどき、セロハンテープで補修された本を見つけます。借りた本がやぶれていたのを直してくださったのだなぁ、とありがたく思います」とした上で、図書館ではセロハンテープを薬剤で剥がし、劣化しない専用テープで修理し直すことを写真入りで解説しています。

 「もし、本のページがはずれたりやぶれているのを見かけたらセロハンテープは貼らずにそのままカウンターまでお持ちください。傷んだ本を直してあげたい、というみなさまの温かいお気持ちは私たち図書館員が受け継いでしっかり修理いたします」(桑名中央図書館スタッフブログ「セロハンテープとの戦い??」より引用)

資料保存のプロ「何もしないで持ってきてください」

 セロハンテープによる本の補修は「かなり大きな悩みの種です」と声を落とすのは、日本図書館協会で資料保存委員会委員長を務める眞野(しんの)節雄さんです。

 資料修理の材料は、基本的には和紙や布、でんぷんのりなどを使います。資料により補修用テープを使うことも。テープ一つとっても、複数の図書館用品メーカーからさまざまな材質のテープが発売されています。東京都立図書館のホームページを見ると、修理や製本に使う道具は50種類近く紹介されています。

 長年、図書館資料の保存対策全般に携わり、図書館スタッフへの技術指導も行う眞野さんに話を聞くと、セロハンテープはダメで、補修用テープならいいという単純な話でもなさそうです。

 「資料の劣化にとって、セロハンテープは露骨に悪いです。品質のいい補修用テープでも粘着剤が染み込んでいくと紙がボロボロになってしまう」と、できることなら元の形を尊重したい気持ちを明かします。

 「そもそも直すことは資料にとって悪いことです。破れたところにテープを貼ったり、薄い和紙を貼ると、そこだけ硬くなってしまう。(1冊の本の)どこかだけ強くしても全体のバランスが崩れてしまう。だからなるべく手を入れたくない。でも利用してもらうために直します」(眞野さん)

 補修用テープは簡単に剥がれないため、再修理ができなくなるという欠点もあります。そのため10年程度の短期保存の資料向きといえそうです。

 「補修用テープでいい場合もあるし、30年、50年と残さないといけない資料には貼ってはダメな場合もあります。貴重資料には厳禁です。何を使って補修するかはプロの判断に任せてほしい。何もしないで持ってきてください」(眞野さん)

基本的なことだけど…本を読むときのマナー

 これまで膨大な量の本を手当てしてきた眞野さん。破れ以外にも気をつけたい、本を読むときのマナーをたずねました。

 「机の上でていねいに読む、唾をつけた手でページをめくらない、飲食しながら読まない。ページの角を折ったり、付箋を貼らない。当たり前のマナーや扱いによって本の傷みは違ってきます。基本的なことを守って、ていねいに読んでほしいです」(眞野さん)

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