妊娠しているノラ猫のお母さんを捕獲しようと思ったら…なんと目の前で出産!そんな経験をしたのは大阪市に住む中村令子さんです。Twitterを始めたのがきっかけで殺処分の問題を知り、2017年にボランティア活動をスタートしました。ノラ猫のTNR (T=Trap/捕獲し、N=Neuter/不妊去勢手術を施し、R=Return/元の場所に戻す)や保護をするようになり、マンションから一軒家に引っ越したと言いますから、その“本気度”がうかがえます。
引っ越しから1年近くかけて近隣のノラ猫事情をリサーチすると10匹くらいいることが分かり、少しずつTNRを進めていました。1匹の黒猫が現れたのはTNRが「大体、終わったかな」と思っていた頃です。
「数カ月前に子猫を連れていたお母さんだとすぐに分かりました。しばらく見なかったのでまさか妊娠しているとは思わず、捕獲して不妊手術をしようと思っていたんです。そうしたら、みるみるお腹が大きくなって…」(中村さん)
中村さんの家には老犬2匹と猫6匹がいて、「時間的にも経済的にもこれ以上の保護は無理」。不幸な命を増やさないため、堕胎を視野に捕獲することを考えていました。ところが、警戒心が強く捕獲器に入ってくれません。中村さんは“プロ”の手を借りようと、ノラ猫・保護猫専門のお手伝い屋さん『ねこから目線。』に連絡しました。
2020年9月17日、暗くなりかけた時間帯に『ねこから目線。』のスタッフが捕獲器を設置。母猫の登場を待っていると、スタッフがつぶやきました。「少し前からミャーミャーという子猫の鳴き声が聞こえますね」と。声のするほうへ行ってみると、隣家のエアコン室外機の下でまさに出産中!「濡れた小さい子猫がお母さんのお腹の周りにいました」(中村さん)
こうなると、もう母猫と子猫を引き離すわけにいきません。中村さんはスタッフと相談し、離乳ができて母猫が子猫を連れてごはんを食べに来るようになるまで待つことにしました。
その後も母猫は毎日朝晩ごはんを食べに来たと言います。そして約1カ月半後、かわいい子猫たちを連れて姿を見せるようになりました。出産時、何匹産んだのか数えられなかった中村さんは、そのとき初めてカウントしました。1、2、3…。
「最初は5匹だと思っていたんです。でも、黒っぽい子は2匹と数えていたら、私の母が3匹いるよと。じゃあ6匹だなと思って1匹ずつ捕獲を始めると、黒い子を2匹捕まえた後でお母さん猫がまた黒っぽい子を2匹連れて来て(苦笑)。結局7匹でした」(中村さん)
12日間かけて7匹すべてを捕獲することができました。
さあ、今度は里親さん探しです。ここでも中村さんは『ねこから目線。』を頼りました。“窓口”になってもらい、希望者とのやり取りやトライアルの段取りなどをしてもらうのです。
「お願いしてよかったです。どういう質問をすればいいか、正式譲渡して大丈夫か、一人では自信が持てなかった部分を助けてもらえましたから」(中村さん)
最初にトライアルに出たのはすみれちゃんとさくらちゃん。当初の希望はさくらちゃんだけでしたが、「社会化のためと1匹だと寂しいかもしれない」ということで2匹を提案したところ、すみれちゃんも一緒にと言ってくれました。今はさーちゃん、うーちゃんという新しい名前をもらって幸せに暮らしています。
次は陸くん。単独での譲渡となりましたが、それは里親さんが「終生しっかり責任が持てるのは1匹」とおっしゃったから。これはとても大切な判断です。今はいつきくんとして飼い主さんの愛情を独り占めしています。
ひまわりちゃんは先住猫がいるおうちに迎えられました。中村さんの仕事関係の知人が「引き取り手のいない子がいたら、うちで」と早くから申し出てくれていたのです。先住猫ちゃんとも仲良くなり正式譲渡となりました。
続いて“ラスボス”蘭ちゃん。なぜ“ラスボス”かと言うと、「最後に捕まえた子で、シャーシャーが激しかったから(笑)」(中村さん)。ごはんを食べ終わった母猫が呼んでもなかなか出てこない怖がりさんで、紹介文に「人馴れに時間が掛かりそうだから猫に慣れている方に」と書いたほどです。するとその通り、難しい保護猫を育てた経験のある里親さんが見つかり、今では飼い主さんにべったりの甘えん坊に変貌を遂げました。
最後は空(くう)くんと海(かい)くん。まず空くんに応募があり、2匹を提案すると快くOKしてくれました。今の名前はもずくくんとひなたくん。兄弟そろってすくすくと成長中です。
年明けにはお母さん猫もTNRでき、もう妊娠の心配はなくなりました。
「出産の場面を見たときは頭が真っ白になりましたけど、みんないい里親さんが見つかってよかったです。今後の活動につながる貴重な経験でした」(中村さん)
中村さんはTwitter(@chocochocosinak)で次なる子たちの里親募集もおこなっています。