「か、かわいい!」ミニチュアサイズのカブが話題…東京の知られざる名産、作り続ける農家の思い

広畑 千春 広畑 千春

 うんとこしょ、どっこいしょ。まだまだカブは抜けません…。誰もが知っている昔話のように、カブといえば丸々と太ったものを想像しがち。でも、その「カブ」は、大人の手のひらにちょこんと収まって…ちっちゃくて、でも見た目はしっかりカブで、まるで生まれたての赤ちゃんのよう。そんな珍しいカブが先日、ネット上で話題になりました。

 きっかけになったのは、食材通販サイト「豊洲市場ドットコム」(@tsukijiichiba)のツイート。そのあまりの愛らしさに「かわいい、、!、!!!」ともだえる人や「リアルな食玩かと思った!」「フィギュアの横に置きたい」との声が相次ぎ、4.7万以上の「いいね」が付きました。

知られざる「名人の品」

 同アカウントでは、築地市場時代から10年以上、旬の食材やそれを使った料理などを紹介しており、今の「中の人」は4代目。「ずっと仕入れでやってきた人間なので、季節の移ろいとともに入荷する商品が変わっていく豊洲市場の情景が好きで、皆様に少しでも季節感が伝わればと思い投稿を続けています」といい、「私自身、小さな柿や小さなリンゴなどミニチュア野菜・果物が好きなので『かわいい』という声をたくさんいただけて嬉しかったです」と喜びます。

 ですが、そんな中の人でも、今回のカブは「社内で知っている人間はいましたが、私自身は仲卸さんに紹介され、初めて目にしました」と言う代物。「豊洲市場でも『こういったものがあったんだね』と話題にはなっており、担当者以外はあまり知らない素材だった」といい、最初はツイートでも間違って「間引き菜」と紹介してしまったそうです。

 実はこのカブは、「芽蕪(めかぶ)」という、れっきとした江戸東京野菜。旬の食材として、料亭や和食の店向けに、わずかな生産者がこの大きさにそろえて作り続けている「名人の品」だったのです。その名人の1人で、先祖代々続く農家の13代目という足立区の横山辰也さん(39)に話を聞きました。

-初めて見ました。いわゆる「間引き菜」とは違うんですね。

「はい、普通のカブの成長途中に要らないものを間引いたものではなく、タネ自体も別の、もっと小さい種類のカブです」

―いつから栽培されているのですか?

「父の代から20年近く生産していますが、私はまだ新しい方ですね」

―どうやって作るのでしょう。

「昔は露地で作っていましたが、やはり葉が柔らかく虫や病気の被害に遭いやすいので、今はハウスで作っています。種はカブよりも狭く細かくまき、最短で20日、通常は1カ月~1カ月半で収穫しています」

-小さい分、栽培の難しさもありそうです。

「この時期は気温の変化も大きいので、暖かい日が続くと一気に葉が伸びてしまって商品価値がなくなってしまうんです。芽蕪は菜花などと同じように、早春の風物詩。使われるのは主に料亭やホテルの和会席や、フレンチの付け合わせなどですから、大きすぎるとダメ。10~15㎝ぐらいで揃うよう、気を遣っています」

食文化と一体、表舞台も避けてきたが…

 横山さんによると、もともと足立区では、以前から江戸の食文化の一部として、刺身や料理の彩りになる大葉やつる菜など“つまもの”の栽培が盛んに行われてきました。ですが、その栽培は模倣されやすく、それを防ぐ意味でも「これまではあまり積極的には紹介してこなかった」そう。このため芽蕪も、直接農家が市場に持ち込み、料亭などに流通する「知る人ぞ知る」存在だったのです。

 ですがコロナ禍で事態は一変。「前は豊洲市場に週5回ほど卸していたのが、12月の緊急事態宣言再発令以降は、週2回でそれでも売り切れないほど」と横山さん。「今では、曜日を指定して最低限必要な方に必要な分をお届けしている状況です。本当に、厳しい」と明かし、生産者の中でも「自らアクションを起こさなければ…」という機運が高まり、ずっと断り続けてきた取材も受けることにしたそうです。

 最近では足立区の名産・小松菜が給食にも使われるなど、少しずつ知名度も上がりつつあります。さらに「千住ネギ」など都市化の過程で栽培されなくなった野菜を“復活”させる取り組みも。横山さんは「実は東京には隠れた特産がたくさんあるんです。飲食店向けがダメでも、枝豆など直売をしてみたら売り上げが上がった例もありましたし、今回のツイートをきっかけに、足立や東京の野菜を、もっと多くの方に知ってもらえたら嬉しいです」と話してくれました。

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