長引く新型コロナウイルスの流行、緊急事態宣言にともなう飲食店の時短営業の影響で、今急速に注目を集めているものがある。
それはフード自販機。
パーキングエリアや古いアミューズメント施設などでお馴染みの、うどんや焼きおにぎりを売っているあの自動販売機だ。フード自販機の設置のみであれば厳密には飲食店にはあたらず、時短営業の要請に従う必要はない。緊急事態宣言が出て以来、仕事終わりに飲食店に立ち寄れなくなった「夕食難民」が、フード自販機に温かい食事を求めて集まっているのだ。
群馬県伊勢崎市で自販機食堂を運営する株式会社ミトミのご担当者にお話をうかがってみた。
中将タカノリ(以下「中将」):コロナ禍が始まって以来、また時短営業の開始以降、自販機食堂などの来客数に大きな変化はありましたでしょうか?
担当者:コロナ拡大による緊急事態宣言で、飲食店の時短営業が広がっております。当店ではやはり夜8時以降のいわゆる「夕食難民」と思われるお客様のご来店により、夜間の来客数が若干増えております。深夜ですので、家族連れや団体のお客様は少なく、お一人もしくは、お二人づれのお客様が多い印象です。
中将:フード自販機に注目が集まっていることについてご感想をお聞かせください。
担当者:コンビニが台頭するまでは、24時間営業可能の自販機店舗はたくさんありました。そのコンビニに押される形で減少したフード自販機が、コロナの影響というあまり嬉しくない形ではありますが、再び脚光をあびているのは「新しい生活様式」の一端を支えているようで良いと思います。
中将:自販機食堂は単体の自販機設置ではなく店舗形式で運営されているのでご苦労も多いと思います。コロナ感染対策のためされていることがあればお聞かせください。
担当者:今は寒いので、入り口のドアを少し開けて事務所奥の換気扇と併用して、換気をしています。夏場は大きく開けていました。冷暖房も使っています。店内に手指殺菌用にアルコールを設置し、テーブル拭き用のティッシュと使い捨て濡れおしぼりを設置しております。清掃スタッフも時々店内を清掃消毒しますが、基本無人のため常時店員がアルコール消毒をして回れる環境にないので、お客様ご自身で各部の消毒をしていただけるよう掲示してお願いしております。幸い当店のお客様はみなさん素晴らしく、私が店に行った時に「店内が汚い」と感じることはほぼありません。
以前は小上がりスペースがあり、靴を脱いでリラックスできたのですが、反面どうしても長時間の滞在になりやすく、若いお客様が騒ぐスペースになってしまったため、先日店内にあったゲーム機(感染拡大防止のため非稼動)を小上がりにあげてスペースを潰しました。今まで壁際にあったゲーム機のところにテーブルを設置し、むかい合わず壁に向かって座る形にしました。店舗中央に長テーブルがあったのですが、どうしてもお客様が向かい合ってしまいがちでしたので、長テーブルをやめ、2台の小さめの丸テーブルに三人がけにすることで、「3点式」で向かい合いづらく設定しました。お客様同士の間のスペースも、以前より多めに取れています。
中将:今後のフード自販機事業の展望についてご意見をお聞かせください。
担当者:このままコロナ拡大が止まらない場合、24時間営業可能で店員との接触の少ないフード自販機の需要は増えると思いますが、一度は消えかかった業種です。メーカーの生産はとっくに終わっているため、稼動できる自動販売機自体の数は限られています。メーカーが本腰を入れて新たなフード自販機を製造してくだされば良いですが、おそらくそれは難しいと思います。
そして今後さらなる緊急事態宣言地域の拡大、都市のロックダウンなどの事態になるとしたら「人の動き」がかなり制限され、自販機と言えども24時間営業で「店舗内」での食事の提供は難しくなると考えております。現在当店では「ステイホーム」、「おうちで食事」の支援となるよう、自販機食堂で提供している「ラーメン」の生麺とスープのセットやチャーシューなどをお持ち帰りいただき、ご自宅で調理して楽しんでいただけるように自動販売機を屋外に設置しました。
これでしたら誰にも会わずにお買い物ができます。また店内ですが、同じ方式の自動販売機で「ハンバーガー」の持ち帰り用販売も行っています。冷たいまま出てきますので、店内の電子レンジで温めてお車内で食べるお客様もいらっしゃいますし、そのまま持ち帰るお客様もいます。今後はラーメンだけでなく、うどんの生麺も持ち帰りできるように計画しています。
また、雑誌の取材で知り合った長野県飯田市の「ガレージいじりや」の小林社長が展開している「ハンバーガー自販機」の企画に賛同し商品供給を始めております。小林社長もレトロなハンバーガー自販機を探していましたがなかなか手に入らず、当店の新しい自販機でハンバーガーを販売していたのを見て、すぐ同じ方式の自販機を購入して「レトロではなく新しい自販機で持ち帰り用ハンバーガーを販売する」をコンセプトに事業化をしました。少しづつ稼動機が増えていますので、お持ち帰りの需要はまだまだ伸びる傾向にあると思います。
「自販機で買って誰とも会わずに持ち帰り。おうちで食べよう」が感染予防になれば嬉しいです。
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▽「自販機食堂」
所在地:群馬県伊勢崎市富塚町293-3 1F
Twitterアカウント:https://twitter.com/jihanki_lunch
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フード自販機は「一度は消えかかった業種」だったが、株式会社ミトミのご担当者が取り組んでいるように、新たな需要に対応して進化を遂げつつあることは確かだ。このコロナ禍を教訓に、その社会的意義が見直されるよう願いたい。