多頭飼育崩壊の現場からレスキューされた白猫 今はフランス製のチェアに座るゴージャス猫に

岡部 充代 岡部 充代

 おフランス製の赤いチェアがよく良く似合う白猫スフレちゃん。隣にはオードリー・ヘップバーンの写真パネルがあり、まさに“お姫様”のような猫ちゃんですが、1年前は多頭飼育崩壊の現場で生きるか死ぬかの瀬戸際にいました。

 

 動物と人がともに幸せに暮らせる社会を目指し、猫の保護・譲渡活動や動物愛護の啓発活動などに取り組む『つかねこ動物愛護環境福祉事業部』の関係者らが、兵庫・尼崎市で猫の多頭飼育崩壊を起こした家に踏み込んだのは昨年3月のこと。60代の女性が息子2人と暮らしていたそうですが、糞尿が積み重なった劣悪な環境に60匹以上の猫たちがいて、それこそ折り重なるように暮らしていたと言います。

 レスキューに入った『つかねこ』代表は状態の悪い猫や子猫から順に救出、手分けしてお世話し、一部は尼崎市動物愛護センターに託しました。スフレちゃんもその中の1匹。当時の様子を関係者はこう話します。

「ほとんどの子が皮膚病にかかり、赤くただれていました。栄養状態が悪かったのでしょう。スフレちゃんもガリガリに痩せていて手足には“ハゲ”がありました。初めのほうにレスキューしましたね」

 

 そんなスフレちゃんを“お姫様”にしてくれたのは同じ尼崎市内に住む松葉富美子さん。2018年に先住猫のみぃ君を尼崎市動物愛護センターから迎えていました。

「最初はペットショップに行ったんです。でもテレビで愛護センターを紹介していたのを思い出して、その足で閉館間際のセンターに駆け込みました。前日、公園に捨てられていたという子たちが1つのケージに入っていて、みぃに一目惚れしたんです」(松葉さん)

 以来、センターのホームページを時々見ていたのですが、ある日、譲渡対象の動物たちを紹介するページに、似たような白猫があふれていることに気づきました。「更新ミスかと思ったくらい」(松葉さん)。レスキューされた猫たちの約半数は白猫だったのです。

 

 ネット検索していると『つかねこ』のTikTokに行き当たりました。愛らしい白猫と一緒に目に飛び込んできたのは、「ぼくの名前はミルク。わけあって尼崎市の愛護センターにいる。でもずっとここにはいられない。存在をみんなに知らせてもらえるとうれしい」というメッセージ。

「胸に迫るものがありましたね。つかねこさんのブログを読んでどういう状況かも分かりましたし、とにかく大変な数だったので、私にできることがあればとセンターへ行ったんです」(松葉さん)

 先住猫のみぃ君はとってもシャイな性格。「元気が良すぎる子が来たらびっくりするかも」と考えていたところ、センターの獣医さんからスフレちゃんを薦められました。「おっとりしていておとなしい子ですよ」と。

 

 トライアルを始めてみると、2匹は付かず離れずのいい距離感。1週間くらいで「一緒に暮らせる」と確信した松葉さんはスフレちゃんを正式に譲り受けました。

「1.8キロしかなかった体重は4.2キロにまで増えましたし、皮膚病も良くなりました。集団生活の中で逃げ回っていたからか、ネズミみたいにドタバタ走っていたのですが、それもなくなりましたね。最初はカリカリフードを噛まずに飲み込んでは吐く、の繰り返しだったのも、この3か月くらいで噛んで食べるようになりました。きっと生きていくためには味わっているヒマなんてなかったんでしょう。急にちゃんとしたごはんをもらって、胃腸が受け付けなかったのかもしれませんね」(松葉さん)

 

 地獄から天国へ――。スフレちゃんは今、夢のような毎日を送っています。ただ、尼崎市動物愛護センターや『つかねこ』はじめ動物愛護団体には一緒にレスキューされた子たちがまだ…。

「すべての子に家族ができてほしいですね。その子たちだけじゃなく、本当にすべての子に」(松葉さん)

 その願いがかなうようにと、松葉さんはさまざまな支援を企画・実行中です。

「これは『スフレの恩返し』なんです。だから、まずはスフレの命を救ってくださった『つかねこ』さんにご恩返しを。保護活動をされている方は猫ちゃんのお世話で手いっぱいだと思うので、どうすれば素敵な譲渡会を開けるか、どうすれば注目を集められるか、といった部分をお手伝いできれば」(松葉さん)

 松葉さんは『株式会社 感動創造社』というイベントプロデュース会社を経営しており、そこで培ったノウハウと幅広い人脈を生かして、譲渡会開催に向けた人の紹介、場所の提供などを行っているのです。

「あんなに頑張って活動されている方たちがいるのですから、すでに飼っている人には『捨てないで』と伝えたいし、これから飼おうと思っている人には譲渡会に参加している猫ちゃんたちを迎えてほしい。パネル展示などもして現状を知っていただき、支援してくださる方が見つかるような譲渡会にできればと思っています」(松葉さん)

 スフレちゃんの恩返しは、まだ始まったばかりです。

▽尼崎市動物愛護センター譲渡対象動物一覧
https://www.city.amagasaki.hyogo.jp/kurashi/iryou/pet/1017176.html

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