「カーステ」って、もはや死語ですか? クルマと音楽の切っても切れない関係、その歴史を辿ってみる

小嶋 あきら 小嶋 あきら

 「若者の自動車離れ」なんて言われて久しい今日この頃、「カーステ」なんていう言葉ももはや死語かもしれません。カー・ステレオ。そもそもオーディオ装置としての「ステレオ」という言葉自体、たとえばいま敢えて「カラーテレビ」なんて言ってるようなもので、「モノラル」という言葉とともにすでに死語に近いのかもしれないですよね。

 「カーラジオ」の歴史は意外と古い

 自動車を運転しながら音楽を聴きたい、というニーズは古くからあったようで、アメリカでは自動車の黎明期に近い1930年には「カーラジオ」が登場したと言われています。

 日本では1948年、帝国電波(その後のクラリオン)が国産第一号のカーラジオを発売しました。そしてその後、1950年代には(富士通)テン、ナショナルなどのメーカーも参入して、一気に普及していきます。

 「カーステ」の誕生

 1960年代になると、クラリオンが日本初のカーステレオを開発し、追ってテンも8トラック式のテープのプレーヤーを発売しました。通称「ハチトラ」と呼ばれたこのカセット式テープは、VHSのビデオテープを少し小さくしたくらいの大きさで、中に幅1/4インチ(6.35mm)のエンドレスタイプの磁気テープが入っていました。そしてそのテープには2チャンネルのステレオ音声が4コンテンツ分並行して、つまり8トラック分の音声が記録されていたのです。

 ちなみにこれを発明し、中心となって開発した人は、先に紹介した世界初のカーラジオを実用化した人だったそうです。

 8トラテープは「がしゃっ」と差し込めばすぐに音楽が流れるという、簡単な操作で楽しめる点が自動車用に適していましたが、その構造上、早送りや巻き戻しができませんでした。また、テープそのものが結構大きなサイズだったので、当時の乗用車のダッシュボードにはせいぜい4本くらいしか入りませんでした。ひとつのカセットの収録時間は4コンテンツ分合わせてせいぜい80分くらいでしたから、カセット4本で5時間分くらいでしょうか。なので、ちょっと長いドライブに行くとレパートリーが足りなくなって、同じ曲が巡ってくるのです。そしてそのテープ自体もそこそこ高価でしたから、たいていいつも同じものがダッシュボードに入っていて、週末のたびに同じ音楽を聴くことになります。

 ちなみにその頃筆者の家族のマイカーに積まれていた4本のうち、2本は「笑福亭仁鶴古典独演会」のテープでした。なので子供の頃、楽しいドライブの思い出は常に仁鶴師匠の落語とともにありました。って全くの余談ですが。

 カーステレオが登場した後、1969年にはFM放送の本放送が始まり、よりよい音質で音楽が楽しめるようになります。カーラジオもFM/AMが聴けるものに移行していきました。

 カセットテープの時代、そしてCDからメモリ、スマホへ

 1970年代に入ると、コンパクトカセットテープ(いわゆる普通のカセットテープ)の性能が向上して、充分に音楽を楽しめる音質になりました。それでカーステレオの世界も、8トラックより便利でメディアのサイズも小さいカセットテープが主流になりました。またカセットテープは録音が簡単でしたので、デートの時には自分で選曲したスペシャルテープを持って行く、なんていうのがナウなヤングの間で流行ったのです。

 1982年、家庭用オーディオの世界にCDが登場しました。これは当初、振動に弱く音飛びの問題があったので車載用にするのが難しかったのですが、1980年代後半には徐々に普及して、ディスクを10枚ほど自動で取り替えて再生するCDチェンジャーも定番になりました。

 その後、映像用のDVDに関連したMpeg規格の開発で画像や音声を圧縮する技術が進化して、音楽データのコンパクト化が進み、ハードディスクやメモリ、さらには携帯電話などに音楽を入れるようになり、やがてディスクなどのメディアのドライブが省略されたものが一般的になっていきました。

 同時にカーナビゲーションやカーTVとの融合が進んでいって、いまではマルチディスプレイの中の「音楽」というひとつのコンテンツになりつつあり、装置としてのカーオーディオは姿を消しつつあります。

 カーラジオから90年あまり。「カーオーディオ」という独立した製品は、いままさに時代の流れに飲み込まれるところなのかもしれません。

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