「非常食は特別なものじゃない」…数ある商品から上手に選ぶための「試食会」 味を知ることで実感したこと

平藤 清刀 平藤 清刀

不意に襲ってくる災害に備えて非常食を蓄えておこうと思っても、いざ購入する際に、どんなものをどういう基準で選んだらいいか迷ってしまう。「非常食を選ぶ基準のひとつになれば」と立食形式による非常食の試食会が行われた。

食品メーカーも快く協力

10月31日(土)、一風変わった試食会が行われた。提供されたのは、アルファ米、パスタ、麺類、パン、おでんなど、レトルトパックや缶詰を含む非常食の数々。

 企画したのは、大阪市東住吉区北田辺で「てづくり雑貨のお店・木工房coba」を営む小林博さん。

 「当初は9月1日の防災の日より前、8月29日にやるつもりで準備を進めていたのですが、新型コロナの感染者数が再び増える傾向が見えてきたので、開催を2カ月間延期しました」

このイベントの主役は、前述した通り非常食。小林さんは協力してくれる食品メーカーをインターネットで探し、メールを送って企画の趣旨を説明。その結果、4社から商品を無償で提供してもらったり安価で購入したりして、25種100食分を用意することができた。どれも、缶を開けるだけ、あるいはお湯さえあれば食べられるものだ。

筆者もいくつか試食してみた。

ドライカレー、エビピラフ、チキンライスは、いずれもアルファ米を熱湯で戻したもの。アルファ米の特徴は、米の食感をほぼ保っていて「ご飯を食べている」という感触を楽しめること。しかも美味しい。

珍しかったのは、パッケージに付属の紙カップに水を入れ、粉末を溶くだけでできあがるカスタードクリーム。これを缶詰のパンにつけて食べてみる。ベーカリーで売られているクリームパンに引けを取らない味だった。ラーメンやパスタのコシやモチモチ感も申し分ない。

このイベントはあらかじめSNSで告知され、500円で前売り券が発売された。30人分に抑えていたが最終的には少し上回り、これに食品メーカーの招待分を合わせて40人が来場。さらに開始直後から「今からいいですか」と当日券を求める人が三々五々やってきて、混雑を避けるため何人かはお断りせざるを得ない状況もあった。小林さんのお店の前に設けられた特設テラス席はほぼ満席。家族連れが多く訪れていたのが印象的だった。

だが、やや想定外の事態も発生している。

「はじめの予定では、2食分ぐらいを大きな器に盛ってテーブルに置いといて、来ていただいた方にお皿を渡して、スプーンでお好みの量を取ってもらうつもりでした。ところが衛生管理上、それができなくなって、お弁当用の小さな紙カップに小分けしてお出しする方式に変更したのですが、この作業が思いのほか手間どってしまって……」

そこで急遽、ご近所の人の声をかけて応援を頼んだという。

写真洗浄ボランティアの体験コーナーも

非常食の調理と陳列は、調理設備があるお隣の「cafe Abby」が協力し、その一方で、小林さんのお店では「災害で水に浸かった写真の洗浄ボランティア体験」のコーナーを開設。

西日本豪雨で泥水に浸かった写真を洗浄するボランティア「真備町写真洗浄@あらいぐま大阪」の田中睦美さんが、会場を訪れた人に写真を残すことの意義や作業手順を懇切に説明していた。

「いつものご飯と変わらないね」といわれるほうが嬉しい

自社製品を提供した食品メーカーのうち1社からも、営業担当者が訪れていた。防災士の資格をもつ営業担当者は、非常食のイメージを変えたいという想いをこのように語る。

「非常食は、災害が起こったときみたいに非常時にしか食べてはいけないものとか、備蓄していたものを、消費期限が切れる直前に慌てて食べるものというイメージが強かったと思うのです。でも我々が目指しているのは、そういった特別なものではなくて『常食』にラインナップされるようなものです。だから非常食といういい方をやめて、弊社では『長期保存食』と呼ぶことにしています。そういう意味ではこういうイベントは、味を知っていただく絶好の機会です」

実際に試食した人から「ふだん食べているご飯よりおいしい」といわれるより、「いつものご飯と変わらないね」といわれるほうが嬉しいという。

「非常時だからって、マズイものを我慢して食べなくていい。非常時でも『いつものご飯』が食べられることを、私どもは目指しています」

たしかに、災害に遭って避難を余儀なくされたとき、食事のレベルが一時的に落ちるのは仕方がない。だがそれが長期に及ぶと、大きなストレスになる。なるべく「いつものご飯」に近いものを選ぶには、実際に食べてみて味を知っておく必要がある。参加者の雑談の中からも、折を見て今後も開催してほしいという声が聞かれた。

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