加藤さん夫妻は夫婦ともに犬派だった。しかし、いつものように農道を二人で散歩していると、5匹の子猫と遊ぶカップルがいた。なんとなく気になって、帰路もそこを通ってみると、子猫は3匹になっていたが、犬派だった加藤さんは猫を3匹も飼えないと思い、その場を後にした。
犬派だから猫3匹は飼えない
2009年6月9日、天気の良い夕方、に住む加藤さん夫妻は、いつものように近くの農道に散歩に出かけた。野良猫が多く住み着いている農機具小屋の近くで、若い男女が生後1カ月くらいの5匹の子猫と遊んでいた。帰り道、なぜか気になり戻ってみると、男女の姿はなく子猫もグレー、白黒、キジトラの3匹しか見当たらず、2匹連れて帰ったのだと思っていた。残る3匹はとても人に慣れていて、加藤さん夫妻の後をついてきた。
あまりの可愛さに、加藤さんは「家で飼おう」と言ったが、夫婦ともに犬派で、猫を3匹も飼うことはできない。また、親猫が心配しているのではないかと思い帰宅したという。
「その話を遊びに来ていた娘にしたところ、『保護しなきゃダメ。飼えないなら里親探すから』と、娘がすぐに探しに出たんです。キジトラ1匹だけしかいなかったと抱いて連れ帰ってきました」
きれいで縁起がいい花にちなんで
当時は野良猫の子猫だと思っていたが、今思えば5匹ともあまりにも人慣れしていたので、誰かが野良猫が住み着いているところだと知っていて、飼い猫が産んだ子猫を捨てたのかもしれない。
「うちに来た子猫以外の4匹が、誰か他の人に保護されていれば良いのですが、当時猫に対する興味が無かったことが悔やまれます」
加藤さんは初めて猫を飼育したが、子猫の方から甘えてくれたことやあまりにも可愛い顔に、とても癒されたという。トイレも最初からしっかりできたし、手のかからない子だったので、飼うことにしたという。
「とにかく顔やしぐさが可愛くて、猫ってこんなに可愛いものかと思いました。名前は、この子が産まれた頃に咲く、きれいで縁起がいい花ルピナス(別名:昇り藤)から二文字取って、ルピにしました」
犬派だったが、すっかり猫派に
加藤さん夫妻は、ネットや本を見て飼育方法を勉強した。しかし、ルピちゃんは子猫用のごはんをよく食べ、獣医さんからも健康だと太鼓判を押された。ただ、よく下痢をする子で、5~6時間留守にすると必ずと言っていいほど下痢をして、トイレだけでなく床も汚れていた。
「温厚で淋しがりやで、とても賢い子でした。外出から帰ってくると、度々ジャンプして胸に飛び込んできて、抱っこを要求してきました。よく言うことを聞く、犬のような子で、『ルピおいで』と呼べば、駆けよってきたり、おやつの時はお手、おかわり、ちょうだいと要求したりできました」
加藤さんは、ルピちゃんを飼うまで猫に全く興味が無かったが、朝から晩まで猫のことが中心になり、話の内容もルピちゃんを中心に保護猫のことにも及んだ。犬派だったが、今は100%猫派になったそうだ。
最愛の猫ルピちゃんを亡くして
ルピちゃんは、食欲はあったのでしっかり成長したが、下痢と食べたものを吐く事が多く、何度も病院に通ったが、なかなか良くならなかった。6才になる前から下痢は更にひどくなり、トイレから出た後おしりを拭いてあげないといけなくなった。あたりいっぱいに便が飛び散ってしまうため、トイレのところにセンサーを取り付け、反応したチャイムが鳴ったらトイレに駆け付けた。
その後も嘔吐・下痢が良くならないため、何件もの病院で診てもらって治療したが、最後は入院先の病院から連れて帰る車の中、抱きかかえた加藤さんの腕の中で「フッ」と一息ついて、静かに虹の橋を渡っていった。まだ7才という若さだった。
「亡くなって4年半、いまだにルピの話をたまにしています。そして猫の保護を考えさせてくれるきっかけを与えてくれたのもルピです」
ルピちゃんが亡くなる10カ月前、加藤さんの長女の家の近所で、野良猫が子猫数匹を産み翌日死んでいた。その家の主人が土に埋めようとしたところ、黒猫1匹だけが生きていることに気づいた。長女が「実家で猫を飼っている」と話し、黒猫を引き取ると、いきなり加藤さん宅に連れてきた。
さすがに加藤さんも、生後2日、体重104gの子猫をどうしていいのか分からなかったが、これも何かの縁と思い、夜中も2時間おきに起きてミルクを与え、夏も体を冷やさないようにお湯で温めながら育てた。
「今はこの黒猫ラムと、保護猫サイトからキジトラ猫のココ、三毛猫のにこを引き取り、楽しく暮らしています。今の幸せは、最初に来たルピと2匹の猫を勝手に押し付けてきた娘のおかげです」