神奈川県の観光地「江の島」の魅力を発信し続けるツイッターユーザー「江ノ島さんぽちゃん」(@enoshimasanpo)のツイートが注目を集めています。内容は鳥のトビに食べ物を持ち去られる被害の注意喚起です。ツイートを見たユーザーらは体験談を続々報告。中にはケガをした人や、スマホを取られたという話までありました。
トビってどんな鳥?
別名トンビとも呼ばれるトビとは、どんな鳥なのでしょうか。神奈川県内で活動する野生動物救護団体の有志で結成したグループ「神奈川野生動物救護連絡会」によると、トビはタカ目タカ科で、翼を広げると150-160cmになる大型のタカの仲間。鳴き声は「ピーヒョロロロ」。視力は人間の約8倍といわれ、死んだ動物や魚などを見つけて食べます。
「店の上空ですでに見張ってる」
「目に見える範囲にいなくても、トンビは音もなく一瞬でやってきます!」と注意を促す江ノ島さんぽちゃんにトビ被害の現状を聞きました。
「江の島では観光客の持つ食べ物を奪い去っていきます。狙われたソフトクリームが地面に飛び散っていることが多々あります。ハンバーガーショップやコンビニの上空ですでに見張っていたりします。鋭い爪や大きな羽が当たって怪我もするので気をつけていただきたいです」
中には被害がエスカレートした例も。
「パラソルや木陰など屋根のあるところで食べていれば比較的安心できたはずが、最近は器用にくぐって奪いにくるトビもいます。実際に木の下で、背後からでなく正面からおにぎりをとられた人を目撃して衝撃でした」
ツイッターユーザーたちの体験談の一部を紹介します。
・唐揚げ持っていたらトンビに襲われた
・弁当を開けるなり取られた
・家族のスマホがトンビに奪われた
・ぬいぐるみを取られたが食べ物でないと分かりすぐ離したので拾えた など
自治体や施設の対策は?
神奈川県では県ホームページ内に「トビに注意」のページを開設。県の自然環境保全課に聞くと、食べ物の持ち去り以外にもフン被害や建物に入り込むという被害例もあるそうです。
神戸淡路鳴門自動車道の淡路サービスエリア(兵庫県淡路市)では、施設の屋内外で放送を行い利用者へ注意を呼び掛けています。放送の一例です。
「当サービスエリア上空にトンビが飛来し、お客様の食べ物を奪うケースが多発しております。屋外でのご飲食をお控えいただくか、十分にご注意をお願いいたします。また、トンビに食べ物を与える行為は、周辺が大変危険となりますので、絶対に行わないようお願いいたします」
専門家「悪いトビをつくらない」
「トビが悪いわけでは決してないと考えております」と話すのは、野生動物救護獣医師協会の神奈川支部長で獣医師の皆川康雄さん。
「神奈川県での発端は江の島での餌付けや餌やりと言われており、まさに私たちがトビの悪癖を生み出したと言えます。その悪癖がトビの間で広まり、今や江の島から県内各地の新天地へと広がっているのが現状です」(皆川さん)
また、スマホやぬいぐるみまで狙われる理由について皆川さんは、科学的な根拠はなく推察の範囲と断った上で、「常習犯のトビは餌付けから入っており繰り返し取ることに慣れた個体。それを見た若いトビがうらやましく思い、見よう見まねで『人が手に持つ物は餌だ』と思い込み、間違ってスマホやぬいぐるみまで持ち去ってしまうのではないだろうか」と分析します。
神奈川野生動物救護連絡会の葉山久世さんは、「トビに狙うことをあきらめてもらうには、物理的にトビの侵入を遮断し、併せて人の安全を確保するのが賢明と思います。例えばサービスエリアのような場所でしたら、トビが侵入しない安全に食事できる場を設けるのです。トビが侵入できない構造であれば、屋根や壁を完全に塞ぐ必要はないので、観光やレクリエーション機能を損なわないデザインを工夫すると良いと思います。これは被害発生場所でできるだけ同時に取り組む必要があるので、飲食店や観光協会だけでなく自治体の協力も得て進めるのが良いでしょう」と見解を示しました。
最後に、野生動物救護獣医師協会が作成した対策パンフレットの一節を紹介します。
「悪いトビをつくらない――私たち人間の課題です。悪習を身につけた個体がいなくなるまで、『餌付け禁止』と『取る機会を与えない』ことを粘り強く継続しましょう」
すぐにできる対策は?
・トビにエサを与えない
・トビに食べ物を持ち去る機会を与えない
・トビのいる場所では食べない
・屋根のある場所で食べる
・野外では大きな建物を背にしたり、日傘や傘などを差して食べる
(野生動物救護獣医師協会神奈川支部の注意事項より)