神戸市の元町商店街に高級食パン専門店「わたし入籍します」が8月1日、オープンした。昨年夏に大阪府枚方市に1号店を開店して以来人気を呼び、3号店として食パン激戦区・神戸に初進出した。インパクト大の店名は、ベーカリープロデューサーの岸本拓也さん(45)が命名。日本全国にユニークすぎる店名のパン屋を手がける岸本さんに命名の理由を聞いた。
「まじガマンできない」「キスの約束しませんか」「くちどけの朝じゃなきゃ!!」「迷わずゾッコン」「あらやだ奥さん」「いつかの馬鹿ップル」。つなげるとヤバい小説になりそうだが、これらはすべて岸本さんが手がけた高級食パン専門店の屋号だ。元町商店街を歩いていると、視界に飛び込む「わたし入籍します」のロゴ。道行く人が「何の店?」と二度見する。タキシード姿のパンが、ウエディングドレス姿の花嫁にひざまづく大きな看板が目を引いた。
岸本さんは「考えた人すごいわ」など、全国各地で変わった屋号の高級食パン専門店を手がけ行列を呼んでいる。「わたし入籍します」が、記念すべき100店舗目のプロデュースとなった。“食パンと結婚したくなる(=毎日食べたくなる)、そんな食パンを作って皆さまに届けたい”という思いを店名に込めた。
オープンに先立って行われた内覧会で、岸本さんは「おいしいパンと結婚したくなるような仕上がりになっている。食パン店のお客様は9割が女性。どこのパンにしようか…という時に“このパンに決めた!”毎朝食べるパンと結婚しちゃいましょうというときめきを与えたい」と語った。
2斤サイズの食パンの商品名も「ねぇ一緒に食べよっか」(800円)と、サンマスカットレーズンが練り込まれた「胸キュンな午後」(980円=いずれも税別)と、口にするにはなかなか照れくさい。運営会社社長の永田悠貴さん(34)は岸本さんから店名を提案された時、30秒間無言になってしまった。「ポカンとしてしまった。わけがわからないというか…」と振り返る。
「わたし入籍します」の1号店は、枚方市役所の近く。大胆すぎるネーミングが奏功した。入籍届を提出した後で、食パンを購入する客も多いという。開業1年で、3店舗を出店する急成長。永田さんは「引き出物や縁起がいいと買っていく人もいる。今では名前に愛着があります」と笑う。
岸本さんに、奇抜なネーミングの理由を聞くと「商品の本質を際立たせるため。存在やおいしさを知ってもらうストーリーを伝える手段。パンへの意識の高さを知っていただきたい」と哲学を語った。どの年代でもわかるよう、わかりやすい漢字とひらがなを使うことが鉄則。高校野球を例に出し「横文字で高校名が書かれたユニホームより『天理』とだけ描かれたほうがわかりやすいし、記憶に残りますよね」と教えてくれた。
神戸市は、1世帯あたりの食パンへの年間支出金額が全国主要都市で1位。元町商店街にも専門店がひしめく。岸本さんは「商品に対して絶対的な自信がある。ハレの日のパンではない。毎日食べても飽きが来ないこのパンの味を、神戸の人にも知っていただきたい」。プロデュースした「わたし入籍します」は、パンの街・神戸と添い遂げる。