個人ボランティアをしている中島さんは、2匹の子猫を保護したと知り合いのおばあさんから連絡を受けた。生後1カ月くらいだという。中島さんは、他にも保護した子猫を抱えていたが、おばあさんひとりでは飼育できないといので引き取った。2匹はとても人懐っこく、誰かに捨てられたようだった。
「里親を探して」と頼まれて
2020年8月末の週末、茨城県に住む中島さんは、数年ぶりに祖母宅の近所に住む一人暮らしのおばあさんから電話をもらった。祖母宅には以前住んでいたことがあり、おばあさんとは顔見知りで、中島さんが個人で猫ボランティアをしていることを知っていた。
「庭に子猫が迷い込んできて、かわいそうなので保護したけれど、私ももう歳だから面倒をみるのは難しい。引き取って里親を探してほしい」と頼まれたという。
さらに詳しく話しを聞くと、生後1カ月くらいの子猫で、手のひらに乗るくらいの大きさ、ごはんは自分で食べているということだった。中島さん宅には、当時すでに保護子猫が2組3匹いて、それぞれ隔離が必要な期間だったので、新たに子猫を保護するとなると隔離スペースを確保するのが少し難しいと感じた。
「でも、夏の暑い時期、一刻も早く我が家へ迎えないと死んでしまうかもしれないと思い、翌日引き取りに行く約束をして電話を切ったんです」
中島さんは、夜の間に適度にエアコンの冷気が届く玄関の小あがりに、子猫用のサークルとベッドなどを準備して、子猫たちを迎える準備をした。中島さんは、本来、ケージなどを玄関に置くのは、脱走の危険があるためよくないと思っているが、隔離スペースを他に確保できなかったので、数日間限定で設置した。
翌日、中島さんは、子猫たちを迎えにおばさんの家に行った。一人暮らしのおばあさんは、若いころから捨て犬や野良猫がかわいそうだと、拾って世話をしていた。今でも数匹の猫たちと暮らしていて、近所の親戚や、仲の良い友人がサポートしてくれている。
ケージの中をのぞくと、ガリガリに痩せた生後3カ月くらいの白猫の子猫とキジトラの子猫がいた。おびえた様子で中島さんを見ていた。
中島さんは、「生後1カ月くらいと聞いていたけど、結構大きくなっているな。とてもサークルでは面倒見られないからどうしよう」と思った。おばあさんにキャリーを渡してケージから移してもらったのだが、元気そうに動いていたので、一安心したという。
困っている猫を放っておけない
中島さんは、5年前、トラバサミにかかって脚を大けがした野良猫の小太郎くんを保護した。小太郎くんと暮らしていたら愛しさが募って、猫の魅力にとりつかれ、小太郎くんのいない生活は考えられなくなった。
野良猫や捨て猫のこと、虐待されて生きている猫のこと、多頭飼育崩壊やペット業界のことなど、猫を取り巻くさまざまな問題について知ることになった。庭に捨てられたり、道端でひかれそうになったりしている猫を放っておけず、気づけば保護猫10ニャン大家族になっていた。これまでに56匹の猫を保護して、33匹の猫を里親の元へ送り出した。おばあさんに託された子猫は、54、55匹目だった。
家に着いて2人を抱き上げてみると、骨と皮しかないくらいガリガリにやせていて、身体中骨が出張っていた。
「普段もっちりふわふわの子ばかり撫でているので、猫ってこんなところに骨があったんだ!と驚くほどやせていた」
2匹ともお腹がパンパンに張っていて、寄生虫がたくさんいるようだった。お腹がすいてカエルや虫まで食べていたと思われた。
過酷な環境を生き延びて
中島さんは、兄弟でセットになるように名付けている。白猫は、白くて卵のようだったからたまごくん、キジトラの子猫は、秋の味覚おでんにちなんでがんもくんと名付けた。
シャンプーをすると大量のノミが出てきた。特に、たまごくんのほうはひどかった。お尻のほうからシャワーを当てると、慌てたノミが額の方に大量に移動してきて、這いまわり、衝撃を受けた。あちらこちらに傷や瘡蓋があり、尻尾の真ん中から先の毛はほとんどなく、皮膚もガザガザだった。
「たまごとがんもが、保護されるまでどんなに過酷な環境で生きてきたのかと思うと、胸が苦しくなりました」
がんもくんとたまごくんは、まったく人を怖がらず、迎えたその日から甘えて、おもちゃで遊び、ごはんをたくさん食べた。病院の診察台でもゴロゴロのどを鳴らすほど人が好き。獣医師や看護師も、「きっと小さなころから人と暮らしていたのだが、捨てられたと思う」と言った。
中島さんは、猛暑の中、乾きや飢えに耐えて生き抜いた2匹を必ず幸せにしたいと強く思った。
たまごくんはちょっとガラガラのかわいい声で甘えるのが得意。遠くにいてもかわいくにゃ~にゃ~と中島さんのことを呼ぶ。がんもくんはごはんが大好きな食いしん坊で、いつも一番乗りで完食する。
中島さんは、巣立つ準備ができた猫たちが、優しい里親のもとに旅たち、たくさんの愛情を受けて幸せに暮らしている姿を見ると、どんな苦労も忘れてしまう。卒業したみんなの幸せな姿が、次の子を保護する原動力になっているという。
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