本気を出したら名古屋からカンヌへ!視聴者を“イラつかせた”土村芳が明かす『本気のしるし』

石井 隼人 石井 隼人
視聴者をイラつかせた!?土村芳(撮影:石井隼人)
視聴者をイラつかせた!?土村芳(撮影:石井隼人)

その答えが、浮世側の視点から物事が語られる後半のエピソードで得られた。「周囲からはめちゃくちゃに思える言動でも、それは浮世なりに必死に自分の居場所を確保しようとひたむきに行動した結果。浮世は自分の身を守るのが下手なだけで、その下手さの隙をつかれて男性に付け入られてしまった。浮世の不器用さと悲しみを知ったとき、彼女だけが悪ではないと思えたんです」。

すると主人公・辻(森崎ウィン)の見え方もガラリと変わる。浮世の言動に巻き込まれる面倒見のいい男という姿から「日常生活に対して冷めた見方をしてる虚無的な人という印象。刺激を求めて奈落に身を投じたいという破滅願望さえ持っているように思えてきました。浮世の見方が変わったように、辻さんの抱えている闇も後半になるにつれてどんどん露わになっていきます」と衝撃を予告する。

ベースに原作漫画があるとはいえ、絶妙なキャラクター造形やサスペンス感すら漂う張り詰めた演出は深田監督の才気に寄るところが大きい。参考作品として事前に土村たちにロバート・アルトマン監督の『ロング・グッドバイ』を見せるという時点で、テレビドラマの枠を度外視した作品作りを標榜していたことがわかる。浮世と辻の同僚・美奈子(福永朱梨)との格闘シーンでは、映画『幕末太陽傳』などで知られる川島雄三監督へのオマージュも捧げられている。

ファミレスで浮世と辻が2人で食事をする場面では「森崎さんの目を見てセリフを言うのか、それともちょっと下を見ながら言うのか、目線にこだわった演出をつけられました。目線の投げ方一つ一つを微調整しながら進めるのは初めての経験。私自身も映画を撮っているような感覚でした」と深田演出の神髄に触れた気がした。

連続ドラマ版は日本民間放送連盟賞の優秀賞を受賞。劇場版は2020カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクションに選出。土村は「ドラマが放送され、映画になって、そしてカンヌと…あまりにも展開が早くて頭が追い付かない」と笑いつつ「今までスクリーンで観てきた深田監督の作品の中に生きることができて嬉しい。今はその一部になれた実感を噛みしめている最中です」と喜んでいる。本気の試みが映画という形で新たに蘇る。

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