「一日は長い」のに「一年は短い」と感じるのはなぜ? 「心理的な時間の感じ方」の不思議

中村 大輔 中村 大輔

休みが明け、「平日は長く感じるのに、休みはあっという間に過ぎる」と感じている方や「年々時間が早く過ぎる」と感じている方も少なくはないのではないでしょうか。

現代はいつでもどこでも誰とでもつながることができ、物や情報を入手できるまでの時間も一段と早くなりました。時間も有効に活用できるようになり、生き方の選択肢も広がりました。しかし、日常が便利で効率よくなるほどに、かえって情報の取捨選択に迷い、時間は短く感じているのかもしれません。

物理学者のアルベルト・アインシュタインは相対性理論を発表し、時間は立場によって伸び縮みする相対的なものであると今日では考えられるようになりました。時間を指標にして生活している私たちにとって、「時間は流動的に変化する」と考えることは不思議に思うかもしれませんが、速度や重力の影響によって時間は相対的に変化しており、日常ではGPSがこの原理を使っているといわれています。

時間は絶対的なものではないと考えられているため、個々の生き方の速度や重みの感じ方で変動すると考えるのも、ごく自然なことともいえます。心と体は影響し合うと考えられているため、何かに打ち込み、時間の経過が速く感じられるという生き方は、若さを保つ秘訣になるのかもしれません。

時間の感じ方に差があるとして、心理学的な観点で長く感じたり、短く感じたりするのはなぜでしょうか。

時間を意識する回数や生体内のリズムなど、様々な理由は挙げられますが、私たちが時間に意識を向ける瞬間の“認知の仕方”にもヒントは隠されています。時間や日付、年齢といった客体的な数値を見たときに、どのような考えをしているか注目してみて下さい。

「もうこんな時間」「歳をとった」など、個々に様々な考えを持ちます。つまり、“時間”を表す数値を意識したときに、自分がどのように数値を解釈しているかで、とらえ方に差が生じているのです。これは体重や順位などの数値も同様で、判断する個人の認知の仕方によって数値の意味が異なります。

カウンセリングの中で、ある女性は「仕事で頑張っていても、親や親戚からは年齢で見られて結婚や子供の話を出され、今自分が何をしたいと思っているのかを見てくれていない」と、残念そうに語りました。

時間や年齢を絶対的な指標のように判別しがちですが、感じ方は個人によっても異なります。“時間は相対的に変動する”という考えを持つことで、「時間や年齢にとらわれず、今何を感じていて、自分はどうありたいか」で、判断できるようになるでしょう。

一方、一日一日は長く感じているのに、一年が経過すると「もう一年が過ぎている」という矛盾した感覚になる方もいます。これは記憶のプロセスに鍵があります。記憶は大きく分けて長期記憶と短期記憶に区分できます。

通常、私たちは目の前にある情報を認知し、注意を向けることで記憶が行われます。重要と思う情報は、反復学習され長期記憶へと貯蔵されますが、それ以外の情報は忘却されます。

一年間で忘却する情報が多いほど、蓄積される情報が少なく、一年を通してみると時間が短く感じられるということが起こります。

昨今は様々な情報に溢れていますが、SNSや動画等で他人に関する情報を蓄積しても、自分にまつわるエピソードや知識などの量が相対的に少なく、忘却された結果、気づいたら月日を重ねていたということもあるかもしれません。

現代人は時間に追われ、時間を意識したスケジュールを設定しがちです。今見ている感動をカメラで記録して、その時に自分で記憶するという習慣も減っています。“今”という状況を観察する「マインドフルネス」という考え方にも代表されるように、今感じている瞬間を大切にした生き方をしながら、一年を過ごしてみるのはいかがでしょうか。

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