コロナ禍の日本では「PCR検査」へのハードルが高いと指摘されている。無症状の場合に医療機関で検査すれば3ー4万円かかるとなると、二の足を踏んでしまう。より安価で…という声に応え、1万円を切る価格での検査が登場した。さっそく体験取材した。
記者が受けたのは「にしたんクリニック」(東京)が8月下旬から提供を開始したセルフPCR検査。鼻腔拭い液など従来の採取方法とは異なり、診療なしで、自宅に送られてきたキットに唾液を自己採取して返送し、検査結果がメール送信されるセルフ方式だ。1回分が9000円(10回分チケット購入の場合)と低価格な点も注目される。
濃厚接触者と認められた人、高熱や咳、味覚がしないなどの症状がある人は保険が適用され、個人の負担金額は「3割」となる。厚生労働省より「当該検査費用負担を本人に求めないこととする」とされているため、その「3割」は公費負担で、行政検査にあたるPCR検査の実質の自己負担は無料。逆に、このセルフ検査は、そうではない「無自覚・無症状」の人が検査対象になっている。
さっそく実践した。申し込み後、検査キットが一式、袋に入って自宅ポストに投函されていた。唾液保存容器、容器の蓋、漏斗、吸水シート、密封袋の5点。説明書には「喉にウイルスが溜まりやすいので、喉元を軽くマッサージしてから唾液を採取してください」とある。確認すると「喉にウイルスが溜まりやすいため、唾液にウイルスがまじりやすいようにするため」とのこと。喉をもんでから唾を出す。約2時間前から頻繁に水分をとったおかげで、結構な量の唾液が漏斗にスルッと入った。必要量は1ミリリットル。蓋をしてシートでくるみ、袋に入れた検体を郵送した。
検査結果は検体到着から約24時間後を目安にメールで通知される。体調は普通。「大丈夫だろう」という気持ちの半面、無症状感染の可能性を考えると、やはり結果は気になる。翌日、メールに添付された通知書を緊張しながら開いた。
「陰性」。ホッとした。だが、その下には「上記患者が新型コロナウイルスに感染していないことを保証するものではありません」と記されている。ホッとしてはいけない。陰性だからと安心して感染したら元も子もない…という意味の警告なのか?
同クリニックの担当者は「そのような警告の意図は一切ございません」とし、「まず、当院のPCR検査は、大きく分けて2パターンあり、検査結果通知書発行のみと、検査結果に加えて陰性証明書の発行です。通知書発行のみの場合、オンライン診療にて当院の医療従事者が唾液採取の際に立ち合わないため、その唾液が申込者本人の唾液であることを第三者が証明することができません。そのため記載しています」と説明。つまり、替え玉の可能性を見込んでの表記であり、本人であれば素直に結果を受け入れられる。
一方で、公的な陰性証明書が発行(別途5千円)される場合は異なる。担当者は「その場合、唾液採取の際にオンライン診療による医師、または看護師の遠隔指導を受けながら採取するため、申込者本人の唾液であることを証明できます。そのため、陰性証明書には(上記の)記載がありません」と解説。なお、陽性だった場合、いずれも同クリニックから保健所に報告し、その後、保健所から本人に連絡が入り、その指示に従って行動する。
検査を何度も受ける意味について、担当者は「PCR検査は受けた段階で『陰性』か『陽性』かを確認するものであり、その後も感染しないことを証明するものではありません。そのため、職場やご家庭などにおいて感染の心配がある場合、もしくは感染していないことを確認するために定期的に検査を受ける、という生活スタイルが今後定着する可能性があると考えています」と指摘する。
検査のタイミングとしては「事例として2週間に1回検査を受ける予定の方や団体もいらっしゃいます。また、陽性者と接触した時、仕事や旅行、帰省などで必要な時、冠婚葬祭、病院や介護施設などへのお見舞、入学試験や卒業式など大切なイベントの前…など、イレギュラーで検査がすぐに必要になった際も想定しています」という。
いずれにしても、記者はこの半年の間、何度か微熱を出す度に起きた不安が、可視化された「陰性」通知によって解消された。もちろん、今後も感染の可能性は常にあるわけだが、たとえ「とりあえず」であっても、精神面で一つの区切りは付けられた。