度々話題になる「箸の持ち方」。単なる食事のマナーだけでなく、家庭でのしつけや教育とも絡めて語られることも多いこの問題ですが、あるツイッターユーザーが先日、現在「伝統的で正しい」とされている箸の持ち方の歴史が「実は意外に“新しい”のでは?」と疑問を投げかけました。その根拠は、江戸時代に描かれた浮世絵。詳しく聞いてみました。
「箸の持ち方」がツイッターでトレンド入りした14日、「正しい箸の持ち方が本当に伝統的なものだったのかというと、おそらく違うのではないかと思う」と投稿したのは、terada(@terada50397416)さん。添えられた江戸時代の浮世絵の写真を見ると…交差したり、握ったり。確かに、見事にバラバラです。
さらに、箸の発祥である中国や伝来してきた韓国など、箸文化を持つ他のアジア諸国と共通する「正しい持ち方」はなく、持ち方自体への関心も日本に比べ低いと指摘。「明治以前の明治以前の礼法書を見ても箸の持ち方の言及はないし、箸が誕生してすぐに正しい箸の持ち方ができたのではなく、箸の持ち方はキセルや杖の持ち方と同じで人それぞれだったが、大正頃に正しい持ち方というものが出来上がったのでは」と考察しています。
浮世絵には、さまざまな持ち方が
―なぜこのツイートを?
「たまたまトレンドに箸の持ち方というトピックがあったので、以前から漠然と考えていたことを書いてみようと思い立ちました。箸の持ち方を描いた資料は以前から少しずつ集めていました」
―「面白い」「確かに中国の箸は日本の持ち方だと使いにくい」などの反響がありました。
「15日時点で150万インプレッションを超えているので、多くの人が箸の持ち方について興味を持っているということを実感しました。また、身体的な理由によって正しいとされている箸の持ち方ができない人、左利きの人など、箸の持ち方で肩身の狭い思いをしている人などが喜んでいるのも見られました」
「もちろん、美しい箸の持ち方を否定する気持ちはないですし、美しく食べたいという気持ちは素晴らしいと思います。ただ、今は箸の持ち方ひとつでその人の人格さえも否定されることがあります。相手の身体的事情すら斟酌せずにそのように蔑視する人もいるようで、それらの蔑みに苦しい思いをしている人がいたのだと思いました」
「箸の扱い方」のマナーにも変遷が
一方で、「箸の『持ち方』にルールは無かったと思いますが、箸の『扱い方』には確実にマナーがありました」とtaradaさん。「移り箸」や「ねぶり箸」などダメな例も記されていますが、今ではほぼ同義とされている「こじ箸」と「探り箸」に明治期には明確な違いがあったことや、今では箸を握り込むこととされる「握り箸」は、明治では「一方の箸を使って箸についた飯粒を落とすこと」だと説明されていること等も指摘。「言葉が移り変わるのと同様にマナーも移り変わるもの」と話します。
「伝統」と言われれば、そうなのか、と思い込みがちですが、実はその「伝統」すらも人の営みの中で変化してきたものです。とはいえ、明治期以前の書物の多くは「変体仮名」と呼ばれる崩し文字で書かれているため、まるで外国語のようでさっぱり読めません。日本語の歴史を勉強していたteradaさんは3年ほど前、明治時代の文部大臣、井上毅が記した書物を見て「自分の国の本でありながら、たかだか百数十年前の明治時代の人が書いた字でさえ読めないのは少しばかり情けない」と衝撃を受け、少しずつ勉強を始めたといいます。
悩ましい変体仮名も、今ではネットに一覧表が載っている時代です。頑張って読んでみれば意外と色んな発見があるのかも。そして、今何気なくしていることも、何十年何百年か後の世の中では「失礼な、マナー違反」なんて言われることもあるのかもしれませんね。