ペットを亡くした人なら、別れがどれくらい辛いものなのか想像に難くないだろう。群馬県に住む市村さん夫妻は、二度と味わいたくないからペットは飼わないと約束していた。猫と触れ合うために猫カフェに行くことはあったが、飼うことはなかった。しかし、ある日、夫が勤める会社の人が、道路でうずくまっていた子猫を保護した。
道路でうずくまっていた子猫
2019年9月27日の朝、群馬県に住む市村さんのところに夫から電話がかかってきた。職場の人が子猫を保護したのだが、動物病院に連れて行ってくれないかという。道路で「ごめんねポーズ」で顔を伏せていたという。夫の職場まで30分くらい。市村さんは、子猫を引き取りにいった。
子猫は、職場の人が用意してくれたダンボール箱に入っていたが、キャットフードや水をあげても反応しなかったそうだ。
ペットは飼わない
市村さんは実家で犬を飼っていて見送った経験がある。夫も小さい頃から猫を拾っては飼っていたので、二人とも別れの辛さを知っていた。夫婦で何度も話し合い、動物を飼うと必ず別れがやってくる、ペットは飼わないでおこうと決めていた。
「夫は猫が大好きで、いくら飼わないと決めていても目の前に弱っている子猫がいたら放っておけなかったのだと思います。私も夫の立場なら、同じことをしたと思います。職場の人に誰か飼える人はいないか聞いてみるとは言っていましたが」
市村さんは、なんとなく子猫を飼うことになるという予感がしていた。今までも猫を見かけるたびに飼う、飼わないという話が出たが、猫カフェで触れ合うだけでよしとしていた。共働きで留守がちという事情もあり、安易には飼えなかった。
猫の生命力って素晴らしい
子猫はずっと顔を伏せていたので分からなかったが、獣医師が抱きかかえると目の周りには傷がついていて、口元にもかさぶたがあった。左足も骨折していて、高いところから落ちたのか事故に遭ったのか分からないが、顔面を強打したようだった。猫風邪をひいていて目ヤニがひどく、低体温で脱水もあった。
獣医師は「衰弱していて、痛みも感じている。一週間持たないかもしれない。骨折の治療も難しく、生命力にかけて見守るしかない」と、抗生物質などの薬だけ処方してくれた。市村さんは、「助からない子だったの、大事に育てようと思っていたのに」と思い、衝撃を受けた。検査の結果を待つ間、待合室で座っていたら涙があふれてきたという。
何かこの子のためにしてやりたい。そう思った市村さんは、カイロをタオルでくるみ子猫のそばにおき、ミルクを飲ませて看病した。翌日、子猫は、脚をひきずりながらトイレに向かっていた。ごはんも柔らかいものなら少しずつ自力で食べるようになった。市村さんのことを鳴いて呼ぶようにもなり、生命力の強さを感じさせた。
「絶望してただただ落ち込む私に比べ、子猫は、あんなに衰弱していたのに安心や元気、勇気を与えてくれる。そのことに感動しました」
子猫は白と黒っぽいハチワレだったので「おにぎり」という名前にしようと思ったが、よく見たら茶色も混ざっていたので、おにぎりの具材「おかか」という名前にした。
肝臓の数値がいまひとつだが、飛んだり跳ねたりして元気に過ごしているという。
「猫はツンデレで我が道を行くのだと思っていたのですが、甘えてくれるし、おもちゃを持ってきて『遊ぼう』と言うのが可愛くて」
キッチンに入らないよう扉をつけたが、力がついてきたのでぐいぐい押して市村さんのそばにいようとするという。