レイプで妊娠、コロナで仕事も住む所も失った女性が「赤ちゃん可愛いと思ってもいいのかな…」と思えるまで

広畑 千春 広畑 千春

責め続けられた日々から…「今は目に入ってくるものが、全然違う」

 「小さないのちのドア」を訪れてから1カ月が過ぎた今、女性はスタッフ向けの住居で一人で暮らし、週に1度はマナ助産院のリビングで、手作りのお昼ご飯を囲む。8月のある日も、「急に大きくなったわね」と言われ、笑いながら、丸いお腹を両手で包み込んだ。

 「妊娠が分かってから、ずっと『なんで早く気づかなかったの、それなら中絶できたのに』『産んでも子どもを抱えて生活できるわけがない』と責められ、否定され続けてきたから…。赤ちゃんが可愛いとか思うこともダメなことだと思ってた」と女性。「もし産んで育てるならシングルマザーは確定。自分も途中で家事育児、仕事でいっぱいいっぱいになったら…。特別養子縁組も周囲には受け入れられないんじゃ…とか、ネットで見る偏った知識しかないし、そういうマイナスの情報ばかりが目に入っていた」

 「でもここで過ごして、生まれてすぐの赤ちゃんとお母さんの姿も見て、やっと、赤ちゃんのことを喜んでもいいのかも、と思えるように…なった、かな?って。ツイッターでも、子育てしてうれしかったママの話や、子どもの生年月日分を貯金する話、子どもの名付けとか、目に入ってくるものが全然違うんです。不思議」とはにかむ。

 今は生まれる子どもを自分で育てるか、特別養子縁組をするか、両方の可能性を想定して準備を進めているという。「彼女には『時が来るまでは、無理に決めなくていいからね』と伝えています。悩むことより、まずは前を向いて、お腹で赤ちゃんを育てている自分を愛してほしいから」と永原さん。現在建設中の「マタニティーホーム」(仮称)では、女性のような妊婦を出産まで受け入れ、スタッフらからパソコンや料理などを教わる小さな教室などの構想もあるという。

 永原さんは言う。「彼女は、誰かに助けてほしいといえる力があったから、つながれた。でも、世の中には助けを求める力を失ってしまった人が大勢いる。だからこそ、私たちはいつでも捕まれるように、ずっと手を伸ばしておきたい。たとえそれがレイプでの妊娠でも、それ以上傷を負って欲しくない。日本中のあちこちに、こんな場所が出来れば、哀しいお母さんも赤ちゃんも、もっと救えると思うんです」

  ◇  ◇

 最大で妊婦5人が暮らせるホームは、クラウドファンディングで資金を募り、今年末の完成を目指しています。ただ、運営は寄付で賄う予定のため、道のりは多難。「小さないのちのドア」では9月末まで、建築資材や住宅設備への支援も呼び掛けています。

■小さないのちのドア https://door.or.jp/

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