来年閉館の原美術館、奈良美智氏作「My Drawing Room」など、人気の常設展は「原美術館ARC」へ

山本 明 山本 明

実業家・原邦造の私邸を改築、1979年に開館した「原美術館」(東京・品川)。同館は来年2021年1月、最後の展覧会「光―呼吸 時をすくう5人」終了をもって閉館します。SNSには「閉館は本当にさびしい!」「古き良きものが消えてしまうことを本当に悲しく思います。 行ったことのない方には消えてしまう前に是非行って欲しいです」「閉館前に絶対また行こう」など、愛惜の声が多数上がっています。

同館・広報担当者によると、創始者の原俊夫(前館長、現財団理事長)は当時海外で、自国の文化、芸術として「伝統芸能や古美術ばかり」が紹介される状況に疑問を感じていたのだそう。そこで祖父の屋敷であった「ハラハウス」を思い出し、この昭和初期の建物を「現代美術館」にしようと決心するも、オープン時は「現代美術では誰も来ない」と言われもしたのだとか。しかし、徐々にアーティストや愛好家などが集まる場に育っていったのだといいます。

さらに詳しく、閉館の経緯や今後の展望について広報担当者に聞きました。

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――閉館の理由は。

建物の老朽化です。東日本大震災を経て老朽化が進行し、補強、補修で維持し続けるには限界がくるとの報告を受け、一般公開に適さない状態に陥る前に閉館すべきと判断しました。美術館としての活動は、別館「ハラ ミュージアム アーク」を「原美術館ARC」と改名し、両館を集約して継続します。

――群馬県にある別館ですね。

アークは、磯崎新氏設計のユニークな建物。豊かな自然に恵まれ、屋外には立体作品が点在します。ぜひ「原美術館ARC」ならではの体験を提供していきたいです。

――奈良美智氏作「My Drawing Room」など人気の常設展は。

館内の常設作品、屋外の常設彫刻は大部分を原美術館ARCに移築する予定です。

「My Drawing Room」は奈良氏が数日滞在し、ここで描いたドローイングや作家のコレクションを展示した部屋です。気が向いたときに立ち寄り、その時々の作家の想いを表現する場として、移築後も進行形の作品であり続けてほしいと希望しています。

――「光―呼吸 時をすくう5人展」については。

本展に協力してくださる5人の作家は皆、慌ただしさの中で視界から外れてしまいがちなものに眼差しを注ぐ作家です。本年はコロナという大きな出来事に翻弄され、個々人の記憶を紡ぎにくくなっています。ここ数カ月間はコロナ以外の思い出は少なく、まるで時が蒸発してしまったかのように感じられませんか?

ぜひ本展を通して、過ぎ去る時や光景に今一度、意識を向け、観る人ひとりひとりの2020年の記憶を紡いでゆく一助となれば幸いです。

――最後にアートを愛する人たちへメッセージを。

さまざまな価値観がこの数カ月で一変しました。しかしそんな今だからこそ、新たなアートが生まれてくるのでは。そしてアートはいつも新たな気づきを与えてくれます。それが現在の「非日常」をポジティブにとらえるきっかけになればと願っています。そして、安心、安全が戻ってきたら、ぜひ、美術館を訪れて欲しいですね。

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※現在「原美術館」への入館はウェブサイトから予約が必要
詳細は https://www.haramuseum.or.jp/

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