牛乳が原料のボタンや1個3万5千円の超高級ボタンも! 100万個以上がひしめく専門店を探索してみた

天草 愛理 天草 愛理
「どんな世界でも興味を持って突き詰めてみたら奥深い」と話す本間さん(京都市中京区・エクラン)
「どんな世界でも興味を持って突き詰めてみたら奥深い」と話す本間さん(京都市中京区・エクラン)

 一歩、店内に足を踏み入れると、おびただしい数のボタンが天井近くの棚まで埋め尽くす光景に圧倒される。京都市中京区のボタン販売専門店「エクラン」は、店主が50年ほどかけてヨーロッパ各国を中心に収集したボタンを販売している。色や形、材質もさまざまで、その数、なんと100万個以上という。「小さくてもそれぞれに特徴があるでしょう」と店主は胸を張る。奥深い「ボタンの世界」を探索してみた。

 エクランは2000年創業。店主の本間邦亮さん(79)は、10代から洋裁材料販売店で働き、一時は社長も務めた。数ある洋裁材料の中でも、20代後半から長く買い付けや仕入れを担当したボタンには特に思い入れがあった。

 「ボタンによって服が変わるでしょ。小さいけど、付けることで全部、変化する」。本間さんはボタンの魅力をそう語る。

 「突き詰めてやらんと京都では相手にしてもらえん」と考え、古巣からボタン部門を引き継ぐかたちでボタン販売専門店として独立したという。

 店名はフランス語で「宝石箱」を意味し、店を手伝う長女が名付けた。店名の通り、店で扱うボタンはどれも個性豊かで宝石のようだ。7、8割が海外製で、オーダーメードの洋服が多かった時代の産物という。

 最も高価なボタンは、半球系のプラスチックにガラス石をびっしりと埋め込んだフランス製。大量生産できないことから1個3万5千円もするのだそう。「人が買わんもんを全部、買うたってん」と本間さんは笑う。

 小さなボタンは、技術革新や世相、流行といった時代の変化を反映してきた。金属と樹脂を合体させた「組み合わせボタン」が人気だったころもあれば、ガラス石をはめ込んだジュエリーのようなボタンがはやった時期もあった。ナチュラルなものが好まれたときは貝ボタンがよく売れたという。

 独特の風合いがかわいらしい陶器のボタンは第2次世界大戦中、金属が不足したために多く使われた。「あれはカゼイン、牛乳が原料のボタン」「これは100年以上前のフランスの軍隊のボタン」「それはイタリアのアクセサリー屋が作ったボタン」…。多彩な商品は季節に合わせて年2回、入れ替えている。

 エクランは、北海道から沖縄県まで全国各地から人が訪れる。兵庫県明石市から足を運んだ大学生の女性(20)は「ここのお店の話を聞いたことがあって、調べて来たんです。ボタンの数にびっくりしました。すごいしか出てこない」と店内を見渡した。購入した日本製ボタンでピアスを手作りする予定という。エクランは近年、アクセサリー用に買い求める人が増えており、売り上げの半分を占める。

 「たかがボタン、されどボタン。それにしても、ようこんなに集まったもんやなあ」

 棚を埋め尽くすボタンたちをいとおしそうに見つめながら、本間さんはこうつぶやく。「もっと広い場所でもっと期待に添えるものをそろえたいね。皆さんにおしゃれになってもらって、気分良く楽しい人生を送ってもらえたらなと思います」

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