コロナ禍の中、「寄席の看板猫」が話題になっている。都内の落語定席「浅草演芸ホール」のテケツ(切符売り場)に駐在する雄のジロリ(推定5歳)。落語家の5代目桂三木助(@MikioKatura)が、売り場の小窓から右手(前足)でチケットを来客に差し出すような画像と共に「浅草演芸ホールは運が良いとジロリさんが受付でチケットくれます」とツイートしたところ、31日までに「いいね!」が約25万件、リツイート6万4000件と大反響を呼んだ。ジロリ君を直撃した。
投稿されたのは、7月下席(21~30日)昼席「林家木久扇 芸能生活60周年記念公演」中の7月24日。その5日後、記者が開演前にテケツ内をのぞくと、話題の猫は奥の棚でまどろんでいた。正面の壁には「ジロリとコロナを睨みます」の貼り紙も。同ホールのスタッフでジロリ担当の「まさえ」さんに話を聞いた。
まさえさんは「ジロリがやって来たのは2016年、当時1歳半くらいでした。最初に保護された人の喫茶店にふらふらと入って来て、ジロリと周りを見渡したので名前もジロリ。グレーと黒の縞々で雑種ですが、アメリカンシュートへアの血統が入っている可能性がなくはないと言われています」と説明する。
先代猫の高齢による「引退」に伴い、同ホールで寝起きすることに。「先代と一緒で表に出ない予定だったんですが、猫ブームになり、危害を加えることもないので、テケツでお客様と触れ合うことになりました」。あっという間に人気者となり、17年には猫目線で舞台裏を紹介した「浅草演芸ホールの看板猫 ジロリの落語入門」(河出書房新社)が出版。今では名刺もある接客担当猫である。
ジロリの日常は…。スタッフが帰宅した夜から朝8時半までが自由時間。その間、館内を巡回し、これまで退治したネズミは計12匹になる。8時半には、まさえさんと一緒にテケツに入り、水とエサとトイレも完備した2畳弱のスペースで接客したり昼寝したり。「仲良くしてくれるお師匠さんも増えました。ジロリの主食の8~9割は林家ペー先生からいただいています。柳家小ゑん師匠は毎年必ず『お年玉』と言って主食をくれたり、芸人さんがおやつを持ってきてくれたり」。食い扶持(ぶち)は自分の顔でしっかり稼ぐ。
コロナ禍で同ホールは3月末から2か月間、休館。その間、ジロリはまさえさん宅にホームステイした。6月1日に再開。常連ファンから「心配したのよ」「東京の4つの定席(他に新宿、池袋、上野)で迷ったら、ジロリがいるから浅草ばっかりよ」という声も。今回の反響を受け、まさえさんは「ジロリのツイッター(mistresskuro)のフォロワーが一気に400くらい増えました。三木助師匠だけでなく、他の芸人さんもこれまでジロリの写真を(SNSに)あげていたのですが、今回は時期がよかったのか?猫ブームってすごいですね」と実感を込めた。
三木助はその日の高座で猫を題材とした演目「猫の皿」を披露。3代目の祖父は名作「芝浜」を確立した昭和の名人、4代目の叔父はテレビでも活躍した背景から、36歳の5代目はツイッターのジロリ投稿を説明した上で「親のすねだけでなく、猫の手も借りたい」というマクラで客席をくすぐった。
高座から降りると、三木助は当サイトの取材に「1人で猫カフェに行くくらい、もともと猫が好きだったので、これまでもジロリの写真をあげていたんですが、まさかこんなにバズるとは思いませんでした」と振り返った。
コロナ禍で独演会や出演イベントが中止になる中、SNSの反響は支えになる。三木助は「『ジロリにチケットもらえるだけでいい』というコメントもあって、『落語、聞かないんかい!』みたいな(笑)。でも、ありがたいです。コロナだから『来て』とは言えないですから。今は落語の配信を月1くらい、日曜夜にやっています」。オンライン落語会「おうち落語」などの取り組みで、コロナ時代における落語の可能性を模索する日々だ。三木助は、最後にこう付け加えた。「ほんと、猫の手も借りたいです」
◆浅草演芸ホール(東京都台東区浅草1丁目43−12、電話 03-3841-6545、昼の部・午前11時40分~午後4時30分&夜の部・午後4時40分~同9時、入場料金は通常興行で大人3000円、学生2500円、4歳以上の子供1500円※夜割あり、特別興行はプラス500円)