SNS映えする美しい色づかいと斬新な意匠が「進化系おはぎ」と評判になって4年あまり。「サザエさんの街」として知られる東京・桜新町で人気のおはぎ専門店「タケノとおはぎ」は、コロナ禍に伴う休業期間を乗り越え、現在も行列のできる店として繁盛している。同店を訪ね、おはぎへのこだわりや近況を聞いた。
店頭には7種類のおはぎが並ぶ。(1)こしあん、(2)つぶあん(いずれも北海道産大納言使用、180円)の固定メニュー2種のほか、日替わりの5種があり、取材時は(3)麻の実ときな粉(250円)、(4)紫蘇梅酢漬け(280円)、(5)ココナッツとレモンピール(280円) 、(6)紫陽花(アジサイとブルーベリー、330円)、(7)ナッツ(アーモンド、カシューナッツ、ウォールナッツ、ピスタチオ、310円)のラインアップ。連日更新されるので、リピーターを飽きさせない。
梅雨期の人気商品「紫陽花」と定番の「こしあん」を食べた。いずれも直系約5㌢と一口サイズ。こしあんは甘さ控えめで素朴な味。紫陽花はブルーベリーの甘酸っぱさとシソの香りがマッチし、口の中でまろやかに溶けていく。日本のスイーツ界に定着して久しい「いちご大福」のごとく、あんとフルーツの相性の良さを再認識させられた。
オーナーの小川寛貴さんは桜新町に続いて2018年に学芸大学駅近くに2号店をオープン。店名の「タケノ」とは、おはぎを作ってくれた祖母の名で、その基本を受け継いだ。創作おはぎは何種類もの総菜をプレートに盛り合わせるニューヨークのデリカテッセンがヒントになった。小川さんは「1個のおはぎにたくさんの色を使うのではなく、7種類全部を容器に並べた時に、1個1個の色が違って、いいグラデーションになるように作っています」と明かす。
容器は丸い「まげわっぱ」型。全種類対応の7個入りから、5個、3個入りと大中小の3パターンがあり、1個、2個でも購入できる。選択肢は客の好みに委ねている。
定番おはぎは小豆を使用するが、日替わりの5種は白あんだ。店の隣でデリカテッセンも営む小川さんは「洋風お惣菜で、白いんげん豆は煮込みやペーストなどの料理に使いますが、あんこにするとフルーツにも合い、バリエーションができる」と説明する。
その上で、小川さんは「基本、毎年、同じものはなるべく作らないようにしています。同じ旬の食材でもちょっと組み合わせを変えたり。ブルーベリーの入った紫陽花、冬の『あまおう』というイチゴを使ったおはぎ、春の八重桜の塩漬けを使ったおはぎはすごく人気あって『通年でやってほしい』と言われますが、良くも悪くも、うちではもう1回食べたいと思った時になかったりします。でも、それもうちならではと思って楽しんでいただけたら」と信念を貫く。
コロナ禍で4月初旬から5月のゴールデンウィーク明けまで休業した。小川さんは「和菓子屋でテイクアウトの店は休業要請の対象外で、本当はやらないと保証金も出ないんですが、従業員は電車で来る者もいて出勤が難しかった。スタッフが集まらないと営業はできませんでしたから」と振り返る。それまでは店内販売だったが、再開後はビニールシートを下げた店頭で販売。小川さんは「早く店内でお客様にゆっくり選んでもらえるような状況を作りたいですけど、今はまだこの先が分からないので、このままの状態で続けていきます」という。
営業時間は正午から午後6時までだが、売り切れ次第で閉店。6月下旬に桜新町店を訪ねると、午後1時半の時点で16人が並んでいたが、5分後には「売り切れました」のアナウンス。スタッフによると、「開店30分前の11時半頃からお客様が並ばれています」と盛況が続く。小川さんは「お客様同士や近隣の方に気をつかい、並ぶ際は少し距離を開けていただいてとお願いしています」と呼びかける。
梅雨明けを前に、真夏のおはぎについて聞いた。
小川さんは「例年、夏場はプラムとか、ヒマワリを模したもの、マンゴーなど夏向けのフルーツを使ったもの、シソ系のさっぱりした感じのものですかね」とし、「昨年は『塩とライチのおはぎ』を作りました」と熱中症対策になりそうな異色作を紹介。今夏もその内容は当日のお楽しみとなる。小川さんは「もち米を使っているので、冷蔵庫で保存するとお餅が固くなってしまうので、常温でなるべくその日のうちに」と、「おはぎ道」の基本を最後に付け加えた。