職質逃れに「長ネギをカバンに」? 摘発への警戒強める詐欺師グループ、とうとう事前電話なしの訪問詐欺も

多田 文明 多田 文明

 詐欺とは、私たちの警戒心の裏をついてくるものです。群馬県警によると、ついにアポ電なし、いわゆる詐欺の前触れ電話なしの突然の訪問型詐欺も出てきているとして、注意喚起しています。

 6月に高齢女性の家に警察官をかたった男が「あなたの口座が詐欺に使われている」と、やってきました。そして「キャッシュカードの確認」を名目にカードを預かり封筒にいれて、「ハンコを押してください」と言い、家人が印鑑を取りにいって目を離している隙を狙い、事前に用意していた偽のカードが入った封筒にすり替え、キャッシュカードをだまし取っています。そして、口座から多額のお金が引き出されていました。

 これまでは事前に詐欺の探り電話(アポ電)をかけてから、詐欺の話を信じた高齢者の家だけにやってくるのが、一般的な手口でした。ところが今回は、事前電話なしの突然の訪問詐欺です。この背景には、警察の徹底した対策があると思われます。

 かけ子といわれる詐欺電話をするグループは、事前に用意した名簿をもとに、その地域一帯にアポ電をかけます。そして、詐欺の話を信じて、お金やキャッシュカードをだまし取れるとふんだ高齢者宅に「受け子」と呼ばれる詐欺の実行部隊を派遣します。しかしながら、詐欺への警戒が呼び掛けられている現状では、たくさんの電話をかければ、アポ電に失敗して、警察に通報されるリスクも高くなります。となれば、今の時代、すぐに警察は電話のかかってきた地域をパトロールしながら、怪しい人物に職務質問(職質)をかけていくことでしょう。

 詐欺をする側もこうした職質に多大なる警戒をしています。5月に高齢女性からキャッシュカードを詐取したとして20代女性が逮捕されましたが、彼女のスマートフォンに詐欺マニュアルが残されており、その中に「職質が一番のリスクになる」といった一文もありました。

 さらに詐欺師グループは、職質を回避するために、様々な対策をたてています。そのひとつに「長ネギをカバンにいれる」があります。

 もし警察官に声をかけられても、「カレーを作るための具材を買いにきた」という言い訳をするためです。ATMからお金を引き出す「出し子」のカバンやリュックには、玉ねぎやカレールー、ジャガイモも入れています。

 しかしながら、職質回避マニュアルがあまりにも詐欺グループで一般化したために、出し子がみんな長ネギをもってATMに行ってしまったため、逆に次々に逮捕されるという事態になっていました。まさに、警察とのイタチごっこです。それにしても、出し子みんなが長ネギを持っていたら、逆に怪しまれる事態を先読みできないとは、時に詐欺グループは頭が良いのか悪いのか、わからなくなる時があります。

 いずれにしても、職質に過敏に反応している詐欺グループから見れば、一帯に電話をかければ、その地域に警察官が多くなるのは、自明です。おそらく、それを逆手に取り電話をかけずに、家々をピンポイントに訪れて、詐欺をする形に出たのではないかと思われます。しかも、今は電話をかけるアジトの摘発も続いており、電話をかけるひと手間をなくすことで、詐欺を時短で行える利点もあるかもしれません。

 詐欺のアプローチは、電話、訪問、ネットの三近でやってくるものです。これまでは電話を中心に詐欺を行っていましたが、今後、犯罪グループが訪問(家へ直接に行く)に力を入れてきてくる可能性が多分にあります。

 それを裏付けるように、組織犯罪の指示役が闇バイトで犯罪者を募り、すでに300万円の詐欺被害に遭った高齢者宅に「まだお金がある」との情報で、一カ月ほど後に強盗に入らせたという事件も起こっています。

 詐欺とは、私たちの予期せぬ方向からやってくるものです。これまでの対策のみを考えて、前だけを向いて警戒するのではなく、左右、時に後ろを振り返りながら、詐欺接近への警戒を怠らないようにして頂ければと思います。

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