新型コロナの蔓延で仕事が少なくなり、ネットを通じて少しでも収入を増やしたいと考えて、日々情報を検索している人も多いのではないでしょうか。だますものたちは、そうした稼ぎたいという私たちの心の動きを読んで、罠を仕掛けます。
今年3月、消費者庁は高額な情報商材を購入させる業者の手口に対して注意喚起を行いました。それは「儲かる方法がある」という広告をサイトなどで出して、SNSを通じて消費者を申し込みページに誘導し、9800円でノウハウ情報(情報商材)を購入させるというものです。ひと昔前でしたら「誇大広告にだまされて、ひどい情報を買わされちゃったよ」で終わってましたが、今の手口はそれでは終わりません。これは悪徳販売のきっかけに過ぎないのです。しかも、この手口を行っていたのは、社名の違う3社でした。
A社は「おもてなしビジネス」という「食事や風景の写真を撮影して投稿するだけで、毎日5千円から1万円を稼げる」という情報を販売していました。I社は「本を5分間、スマートフォンに向かって読んで、その音声データを送信するだけで、毎日1万円以上を稼げる」という「音読ビジネス」、W社は「ぺたぺたビジネス」なるネット上の動画をサイトに貼り付けるだけで、毎日、稼げるという代物でした。もちろん、これらの会社は裏でつながっており「ナントカカントカするだけで稼げる」といった、目先の違う入口を3つ作っていただけです。
導入部を複数、作る。これは詐欺でもよく使われる「入口戦略」です。相手が興味を持ちそうな選択肢をいくつか与えて選ばせますが、結局は、ひとつのだましの方向にしか進めないようになっているのです。おそらく、ネット検索でこれらの情報に接した人は「どれにしようか」と悩みながら、選択して購入することでしょう。この時、さも自分で選んだように感じているかもしれませんが、ただ誘導されているだけなのです。
それでは、商材の購入後に行われるだましとは、どのようなものでしょうか。
業者はまず購入者へ、簡単な作業を依頼します。それを行うと1万円ほどのお金を相手の銀行口座へ振り込みます。そして「本当に稼げる」と思わせたうえで、次のような電話をかけます。
「初めに購入した情報はお試し的なもので、本格的に仕事を始めるには、追加でマニュアルを購入する必要があります」その金額は数万円から高いもので、200万円です。
このだましの巧妙な点に、相手に諦めを促すことがあります。
この仕事を始めるためには、オンラインで課される問題に合格しなければなりませんが、実際にはとても達成できないようなものになっています。もし課題をやっとのことで提出したとしても、結果は必ず「不合格」になり、いつまでたっても仕事を始められません。こうした状況を前に、購入者はこのビジネスで稼ぐことをやめてしまいます。消費者庁の調べでは、最初の作業で得た報酬以外に、このビジネスでは稼げるようにはなっていなかったそうです。
これもまた、昔から悪質な内職商法でよく使われる手で、私自身も過去に怪しげな副業ビジネスに登録したことがありますが、業者は私に達成が極めて難しい課題や仕事を与えて、諦めるように促してきました。いわゆる、泣き寝入りの状況に追い込み、自ら手を引かせる。これが手なのです。
もしかすると、2段階目の勧誘電話を受けた時点で断ればよいではないか?そう思われる方もいるかもしれません。ですが、これがなかなか至難の業なのです。私が以前にテレビ番組で情報商材の業者に電話をしましたが、断るのも一苦労な勧誘でした。
ネット広告に「月収300万円以上を稼げる」などと謳う情報マニュアルを5千円で買いましたが、やはりひどい内容で、とても稼げる内容ではありません。そこで、電話相談の窓口に連絡をしました。
男が出てきて、私の月収の状況を把握すると「その位の金額だと(生活的に)厳しいですよね。もっと稼ぎたいですよね」と、ものの数分で勧誘を開始し、もうはや相談電話という状況ではなくなりました。
「55万円の契約をすれば、収益の目標が月収100万円になります。どうでしょう」さらに「100万円を払うコースだと、もっと月に稼げますよ」と執拗に契約を勧めます。
私も相手の手にのらないように「本当に儲かるんですか?」と話を変えましたが、「もちろんです。僕らがしっかりとサポートします。お任せください!」と、さあ、契約しましょう!という話に持っていきます。
再び、「お金を払って損したことはないのですか?」と切り返しても、「一人もいません!あなたを笑顔にする自信があります」「すぐに、ご決済を取らせて頂いて、すぐにスタートしましょう」といいます。
さらに「まさか、この電話で今日決めろといわれてもね」と反論しても「でも、ここで決めた方は絶対に良い」と一方的に話して、こちらが根負けして「はい!」といってしまいたくなるよう方向に、話を持っていきます。
ここで注意したいのが、多くの人は契約書を書いて、はじめて契約成立と思っている人が多いのですが、電話勧誘の場合、電話での「はい、契約します」という口約束でも、契約は成立してしまいます。相手の男も、それがわかっていて私から「はい」という同意を取り付けようとしてきたのです。
情報商材をめぐる詐欺的手口は、今と昔では大きく様変わりしてきています。以前なら、価値のない情報商材を買わせるのが目的、つまり終着点(出口)でしたが、今は出発点となって、高額な契約を強いてくるのです。これもまた、だます側の新たな「入口戦略」といえるでしょう。