岩手県内で13日、1匹の子猫が高さ20メートルのマツの木から降りられなくなり、地元消防署のはしご車が出動するなど大掛かりな救出劇がありました。5月下旬にも、近畿大学で高さ約10メートルの鉄柱に登ったまま降りられなくなったほか、2019年11月には高知の野球場のネットから降りれられなくなった猫をめぐって2日間にもわたる救助活動が行われたというケースも。このような高いところに登って降りられなくなってしまう猫の“珍事件”は絶えません。どうして、猫は降りられなくなってしまう高さまで登ってしまうのでしょうか? そんな猫の心理を探るべく、高円寺アニマルクリニック(東京都杉並区)の院長で動物関連の雑誌や本などの監修も多く手掛けている高崎一哉先生に伺ってみました。
――猫が高いところに登り降りられなくなってしまって、人間が救出するという事例が絶えません。なぜ、猫は降りられなくなってしまうほど高いところに登ってしまうのでしょうか?
いろいろ言われていますが、まず猫は縄張りを見渡せる場所として高い場所を好んで選びます。それは、縄張りを荒らしている存在や縄張りの異常などを見つけることができるからです。高ければ高いほど確認しやすい。ただ、そういった縄張りを見渡せる高い場所というのは本来慣れている場所になってきますが…。
――確かに。降りられなくなってしまうのは、どうも猫が慣れていない場所のようですね。
そうですね。降りられなくなるような高さまで登ってしまう理由として一番考えられるのは、危険を察知して外敵から身を守るために高いところに登るという習性です。彼らは、高いところに登ることによって、安全を確保します。
――つまり、猫は「高い場所=安全な場所」だと考えているのですね。
はい。危険がなくても安心な場所として高いところを認知しているので、なるべく高いところにいたい。さらに、高いところを好む理由として、高い場所にいると仲間の中で優位性を感じることができるということも挙げられます。高いところほど、猫にとっては安全でこの上なく居心地のいい場所なんです。
――でも、安全な場所だと思って登っていったところが実は降りられない場所だった…後から猫は気付くということでしょうか?
猫の本当の気持ちまでは分からないですが…彼らは登るのは得意なんですけど、降りることができないんです。猫は体の構造上、人間のようにお尻から降りていくということは難しい生き物です。猫というのは前進しかできない車みたいなようなもの。降りるときには、頭部からジャンプするしかありません。ジャンプして降りられる高さならばいいですが、「降りられない」と分かったら身の危険を感じます。降りるすべがなくなるので、「高い場所=安全な場所」と思う猫は本能に駆られ、安全な場所を求めてさらに上へ上へと登っていってしまうのだと考えられます。おそらく、10メートルや20メートルも高い場所に登ってしまった猫は地上で何か怖い思いをして、上へ上へと駆り立てられるように行ってしまったのでしょうね。
――安全な場所に逃げるつもりが、逆に危険な場所だったと。登るのが得意な猫でも、あまりに高いところは苦手なようですね。また、登ったのに降りられない理由として、爪の構造も関係があると聞きましたが。
確かに、猫は爪を引っ掛けて木などに登ります。ただ、弓なりに曲がっているので登るときは引っ掛けられますが、降りるときは爪の構造上、降りたい方向へ爪を引っ掛けることができません。ですから、体が不安定になってしまうので、それも降りられない理由の一つだと考えられます。
――爪の構造も降りられない要因の一つなのかもしれませんが、それでも猫は上へ上へと登ってしまうと・・・これからも猫の“救出劇”がなくなることはないかと思います。もし、高いところから降りられない猫に遭遇したら、どのような対応をするのがベストですか?
家の中だったら飼い主が不安になっている猫に声掛けをしてそっと抱き降ろすというのが一番いい方法だと思うんですが。外の場合、猫自身が危険な場所にさらされてパニックになっていると考えられますので、その状態で捕まえようとするとかんできたり引っかいたりする可能性が高いです。やはり、消防やレスキュー隊などを派遣する専門業者など高いところで作業ができるプロに頼むことがベストでしょう。素人の方がよじ登って助けるといったことは危険なので止めてください。
――岩手県で助けられた子猫は野良猫でしたが、近畿大の方は飼い猫だったそうです。その飼い猫は家の網戸を破って外に出てしまったとか。飼い猫が逃げ出して高いところに登ってしまう事例が多いようですが。
室内でしか飼わない猫の場合、外生活のスキルがありませんから、出歩くといろんなことが怖い刺激になります。ですから、安全な場所を求めてより高い場所に登ってしまう危険性は高いでしょう。当院でも脱走して戻ってきた飼い猫を診ることがあります。肉球が擦り傷になっていたり、爪がボロボロになったりしていますね。おそらく、何度も怖いことに遭遇して、どこかに登って逃げたのだろうと想像がつきます。
また、飼い猫がマンションのベランダから落ちたと、当院に連れてこられる飼い主さんもこれまで何人かいらっしゃいました。猫は三半規管が発達しているので足から降りるのですが、数メートル以上の高いところから落ちると、骨折をしたり打撲をしたりケガをすることが多いです。ですから、ジャンプして降りられないような高いところには行かせないように、飼い主の方も目を光らせてほしいですね。
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高崎先生のお話を伺って、猫がこの上なく高い場所が好きだということがよく分かりました。中でも、外生活の経験がない室内猫こそ降りられない高い場所までで登ってしまう可能性が大だとか。大切な猫ちゃんが危険な目に遭わないように飼い主の方も室外へ脱走しないようお気を付けて。そして、「猿も木から落ちる」ならぬ「猫も木から落ちる」わけですから、もし、高いところで降りられない猫に遭遇してしまったならば、くれぐれも大声を出すなど猫を驚かさないよう冷静に行動をして救助を求めましょう。