「これ、ママだよね?」「家庭も仕事もどっちも大事。夫には内緒だけど…」
売れっ子ともなれば、ツイッターやインスタグラムでアイドル並みのフォロワー数を誇り、テレビやイベントも目白押しというAV女優の世界。一方で、家族や周囲には内緒で仕事を始め、バレて辞める人も少なくありません。そのとき、どう対処したのか、そして現在、将来は―。活躍の裏側にある複雑な「家族」への思いを丹念に聞き取りした「AV女優の家族」(光文社新書)が17日、発売されました。
執筆したのは文筆家の寺井広樹さん(40)。前著「副業AV女優」(彩図社、2019年)に続き、「これまであまり語られることのなかったAV女優の生の声や家族の実情を掘り起こしてみたかった」と話します。応じたのは、掲載順に白石茉莉奈さん、優月心菜さん、板垣あずささん、江上しほさん、当真ゆきさん。さらに新人の男優へのインタビューも収録しています。
―家族に内緒で始める人が多いんですね。
「そうですね。恵比寿★マスカッツの第2世代メンバーで、人気女優の白石茉莉奈さんは小学生で芸能界デビューし、CM等に出演、休業・結婚出産を経て家族に内緒でAV業界に転身しましたが、やはりすぐにバレて家族会議になったそうです。ご両親は普通のサラリーマンと専業主婦で、特にお母様の動揺は激しかったそうですが『理解されない、応援してもらえないだろうけど、やりたいと伝えたかった』と明かしておられます。今まで作り上げてきた人間関係すべてを失う危険を承知で『それでも挑戦したい気持ちが勝っていた』と。覚悟ですよね。実際、白石さんはこの仕事を『天職』とおっしゃっていましたし、誇りを持っておられる。ただ、海外単身赴任中のご主人には打ち明けていないそうで、そこはちょっと悩んでおられましたね笑」
―引退をして母になった方も。
「グラビアアイドルからAV女優に転身した板垣あずささんは妊娠で電撃引退され、今は4歳の息子を育てるシングルマザーさんです。息子さんのママ友たちには話していないそうですが『将来的には、息子が聞いてくれるなら話しておきたいかな。別に悪いことをしている訳じゃないし、今の私をそのまま見てもらえれば。良くも悪くも』とおっしゃったのが印象的でした」
―経済的な事情でAV業界に飛び込む女性は少なくないと聞きます。
「ええ。『普通の人はあまりいなくて、超お金持ちのお嬢様か本当に貧乏か。ホストに貢ぐためにAV女優になった人も』と語ってくれたのは優月心菜さんでした。ご自身も両親の離婚を機に経済的に困窮し、鬱状態になったお母様に何度も包丁を振りかざされ『殺す』と言われたり、いじめに遭ったりした経験も。声優を目指して家を出たものの男性に騙され暴力も振るわれ、生きるため風俗の仕事を始めたら今度はホストに貢いでしまい、偶然スカウトされたのがAVだった…と壮絶な半生を明かしてくれました。お母様との関係は、今は良好だそうですが、自分の将来も含め『家庭』への期待はなく『自分で稼いで一人で生きていく力を身に着けたから』と。芯の強さを感じました」
―引退後に新たな道を歩む方も。
「江上しほさんは今、お金を稼ぐためAV女優や風俗嬢、パパ活などしかできなかった女の子たちのセカンドライフ的な事業を模索しておられるそうです。働く所が少なく白い目で見られることもあるそうですが、体や顔を綺麗に保つ秘けつなど経験を生かし『自分の力で稼げるように』と。簡単なことではないですが、原動力は『やっぱり、親に認められたいっていうのが一番かな。今は認めてもらってないって私は思ってるんで』と。実は今回、駆け出しの男優さんにもインタビューできたのですが、女優よりも抵抗は少ないとはいえ家族が『周りの人にいわれても関係ないし』と応援してくれているのが支えだ―と言っておられました。ただ、この男優さんは『自分の結婚とかはAV男優になるときに諦めました。相手が良くても相手のご両親が反対するでしょう』と。やはりまだまだ偏見も強い世界だと改めて感じました」
―表紙の母娘写真は印象的でした。
「当真ゆきさんと娘のつむぎさんです。シングルマザーとして育て、つむぎさんが小6の時にネットとDVDを発見されバレたそうですが、つむぎさんは『ママが否定してきたらケンカだと思ったんですが、あっさり、そうだよ、みたいな感じで』と。高校生のときには大喧嘩もしたそうですが、つむぎさんも働くようになり『いざやってみたら、辛いこともある。内容的にも誰にもできることじゃない物をもうずっと長くやってる。それが結果的に私を育てるためなわけじゃないですか。ありがとね、と思いましたね、なんか。そっからまたお母さんと仲良くなりましたね』と振り返っておられました。当真さんのお母様もすごく肝の据わった素晴らしい方。傍から見ていてもすごく素敵な母娘ですし、素敵な家族だな、と」
「ここで浮かび上がってくるのは、現代社会における、新たな家族の形なのかも」と寺井さん。「実際に今はAV女優の露出が上がってハードルが低くなり、なりたくても“狭き門”と聞きます。そして事務所と正式に契約し、単体でお仕事ができるのはごくごく限られた女優さんたち。辛い現場に心を病む人も少なくないし、偏見もある」とも。それでも誰かに認められているというのは、それだけですごく力になり、家族であればなおさら。それは裏を返せば逆も然り、ということかもしれません。