本屋さんに行くとよく見かける「3Dアート」の本。ぱっと見はモザイクのようなちらちらした画像ですが、うまく調節して見ると映像が浮き上がってきます。タイトルには「目がよくなる3Dアート!」「眼科医おすすめ!」などと書かれていますが、あれは本当に効果があるのでしょうか?
結論からいうとあれは錯覚を楽しむためのものであって、3Dアートを見ることで目が良くなることはありません。眼科では似たようなものを立体視の検査に用いることがありますが、それを使って視力回復の訓練することはありません。
さてそもそも人はなぜ物を立体的に見ることができるのでしょうか?私たちの目には普段、左右少しずつ違った情報が入ってきています。それが脳に届き、映像のずれをもとに、距離感を脳で理解して立体的に認識しているわけです。この立体的にものを見る力(立体視)は、7―8歳までに身につくといわれています。
例えば3D映画は平面の画像ですが、特殊なメガネをかけることで、わざと左右ずれた映像が頭に届くようにしてあげています。左右の映像の差を脳で合成しないといけないので、人によっては長時間見ると目が疲れやすくなります。またもともと立体視ができない人は、3D映画を見てももちろん立体的には見えません。
3Dアートの場合はメガネを用いず、寄り目をしたり、もしくは紙よりずっと奥に視線を向けた状態で絵を見ることで、わざと左右の目で見える絵を変えます。これは言ってみれば脳の「錯覚」を利用した、アートに近いもの。本来は短い時間、錯覚を楽しむためのものです。
3Dアートで視力が回復する根拠として、「ピントを合わせるための毛様体筋を鍛えられる」と書かれていることがありますが、これも医学的な根拠はありません。毛様体筋を動かして訓練したいのなら、どちらかというと1点を凝視するより、遠くと近くを交互に見たほうが効果的だからです。3Dアートで劇的に視力が改善するという期待はしないほうがよいでしょう。
とはいえ3Dアートにもメリットはもちろんあって、「両目を使ってものを見る」という訓練にはなると思います。また3Dアートは本来「アート」ですので、錯覚を楽しむというのが本来の使い方でしょう。過剰に期待はせず、アートを楽しんでいただけたらと思います。