コロナ終息へ信仰の垣根を超えた「祈りの三密」 東大寺からの呼びかけが話題、カトリック神父も賛同

鹿谷 亜希子 鹿谷 亜希子

 新型コロナウイルスの感染拡大で世界的に危機的な状況が続く中、4月初旬にSNSに投稿された【シェア大歓迎】【宗教者クラスターの皆さまへ】で始まる呼びかけに注目が集まっている。

“もし皆さまの社寺・教会でも特別な「祈り」が行われているのであれば、時間(毎日正午から)を合わせて各地で一緒に行いませんか?時間だけの「密接」です。お互いの気持ちを「密集」させて、「密閉」されたような社会の雰囲気を吹き飛ばせたらと思います。”

 呼びかけたのは、奈良の大仏さまで世界的に有名な華厳宗(けごんしゅう)大本山・東大寺(奈良市)。同寺のホームページには、狹川普文(さがわ・ふもん)華厳宗管長・第223世東大寺別当名義で、「新型コロナウイルス早期終息と感染により亡くなられた方々の追福菩提を共に祈りましょう」との呼びかけが掲載されている。冒頭の文章は、普段から東大寺の行事や風景をfacebookとTwitterの個人アカウントで投稿している森本公穣(こうじょう)東大寺庶務執事によるもの。ソーシャル・ディスタンシングを十分に保った「祈りの三密」への呼びかけに、吉野山の金峯山寺や全日本仏教青年会、カトリック芦屋教会などが早々に賛同し、宗派・宗教を超えた祈りの輪が広がっている。

 東大寺では2月下旬の時点で新型コロナウイルスに関する祈りを検討、3月の「お水取り(二月堂修二会)」期間中に読み上げられる「諷誦文(ふじゅもん)」の中に、早期終息を願う言葉を加えた。諷誦文とは、お水取りの行法全体を取りまとめる大導師(だいどうし)が唱える祈願文で、これまでにも阪神大震災や東日本大震災など、時代を反映した祈りが加えられてきた。今回、お水取り満行後も世界でコロナ禍が止まらないことから、改めて4月1日から大仏殿壇上にて、毎日正午の勤行を僧侶が交代で勤行することとなった。7日には、鷲尾隆元(わしお・りゅうげん)東大寺財務執事が約20分にわたり「華厳経」「如心偈(にょしんげ)」等を唱え、外出自粛ですっかり静かになってしまった大仏殿に読経の声が響き渡った。

 森本庶務執事は、「宗教者の方もそうですが、一般の方からの反響を大変多く頂いています。私たちは、いわば祈るプロです。宗教者の祈りを可視化すれば、一般の人の中にも同じ時間に手を合わせてくれる人が出てくるのではないか。祈りを行ってくれる人は、夕方出歩いて飲みに行かないんじゃないか。今回の呼びかけには、そのような“行動変容”を誘発したいという個人的な思いもあるんです」と、胸の内を明かしてくれた。

 一方、「今回の新型コロナウイルスの影響で、教会も活動停止状態に陥っていました」と言うのは、兵庫県芦屋市にあるカトリック芦屋教会の川邨裕明(かわむら・ひろあき)神父だ。今回、東大寺の呼びかけにTwitterで賛同を表明。理由を聞くと、「こんな状況で宗教に出来ることは何かを考えていたときに、森本様の投稿に触れ、深く共感しました。黙って祈る方が良いかとも思いましたが、発信することも大切だと祈りを呼びかけました」と、信徒らにも正午にそれぞれの場で心を合わせて祈ることを提案。拘置所の教誨師でもある川邨神父は、今回の件で宗教者としての使命への思いも新たにしたという。

 そもそも、752年に開眼した大仏(盧舎那大仏)が造立されるきっかけの一つが、当時猛威を振るった天然痘だ。凶作の夏から流行った疫病は、2年後の737年に大流行。おびただしい数の人たちが死に、政権を握っていた藤原不比等の息子4人全員が相次いで世を去った。聖武天皇は、地震や飢饉、疫病や政変がたび重なるのは、自分に責任がある(責めはわれ一人にあり)と受け止め、宇宙の真理を体得した釈迦如来の別名で、世界を照らしひかり輝く仏の意味である盧舎那仏の造立を発願。「一枝(ひとえだ)の草、一把(ひとにぎり)の土」を持ち寄るだけでもかまわないから、民衆一人ひとりに参加してもらい、大仏を完成させたいと協力を呼びかけた。東大寺第218世別当の森本公誠(こうせい)長老は、『東大寺のなりたち』(岩波新書 2018年)の中で、入寺以来常に「東大寺は現代社会においてどのような存在意義があるのかという問いかけ」が脳裏にあったと述べている。1300年に近い歴史を歩んできた東大寺には、今回の疫病に限らず、21世紀の私たちとダイレクトに結びつく問題やヒントが数多くあるのではないだろうか。

 森本公穣庶務執事の冒頭SNSには、「本件について、東大寺への賛同のご連絡・ご報告等はもちろん必要ありません。寧ろ、見えないウイルスとの拡散競争です。絶対に負ける訳にはいかない戦いなので、皆さま各地でよろしくお願いします。『見せましょう、宗教者の底力を』」という一文が後日追記されている。勤行は新型コロナウイルスの終息まで、毎日正午に続けられる。Twitterアカウント、森本公穣@東大寺(@kojomrmt)では日々東大寺の美しい風景が更新されている。「世界の未来は皆さんに託されています。我々と共に祈ってください。そして、家にいてください」という言葉を胸に、テレワークで時間が不規則になりがちな人も、正午を祈りの時間と決めて、自分なりのスタイルで祈ってみてはいかがだろうか。

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