物々交換で豊かになっていく物語「わらしべ長者」にならった試みを、京都府久御山町佐山の宿泊施設スタッフ、南圭太さん(28)が進めている。活動の名を「わらしべくん」とし、昨年1月にそろばんから始め、これまで15の個人・団体と交換してきた。今は「アイドルとステージに立つ権利」になっている。将来は、米IT大手アップル社との交換で、ノートパソコンを手に入れるのが目標という。
南さんは大学時代、カナダの農村地帯で1年間暮らし、トートバッグを手にアジアを旅した経験がある。「自分が面白いと思えば、とりあえずやってみる性格」と言う。
電気機器の営業職だった3年前、趣味で動画制作を始めた。本格的な編集をするのに新しいパソコンが欲しくなったが「ただ買うだけではつまらない。手に入れる過程を多くの人に見てもらいたい」。思い立った物々交換でパソコンを得る人は過去にいても、「アップルにパソコンを交換してもらった人は、そういないはず。やってやろう」。「わらしべくん」の取り組みを始めた。
最初の交換は昨年1月、東寺(京都市南区)の縁日「初弘法」。自宅でほったらかしだったそろばんが着物になり、その後、関西空港にいたアメリカ人がキーホルダーに換えてくれた。帽子やトートバッグを経て、同年6月には、南山城村にある茶畑の畝を1年間使える権利になった。
現在働いている京都市内のゲストハウスを訪れる人や、府内外の各地で出会った人に物々交換を呼び掛けている。自身が持つ物を大切にしてくれると感じた人となら、何でもよいと決めていたが、「トートバッグが茶畑になるとは想像してなかった。次は何になるのか、いつもわくわくしている」。
茶畑の権利は京都市内のカフェ店長が譲り受け、収穫された茶葉を生かした新メニュー開発につながった。わらしべくんの活動が、誰かの役に立ったと気付き、充実感もある。
日本料理店の食事券3千円分、シェアサイクルの1カ月間乗り放題、ロゴデザイン制作権などにもなった。それらを使うことはなく交換を進め、3月中旬には、吉本新喜劇の脚本家が依頼者の希望に沿ってオリジナル脚本を手掛ける特典が、京都や大阪で活動する3人組アイドルとステージに立てる権利に換わった。
これまでに交換で手元にあった物をわらしべくんのツイッターアカウント(@15mrwasabi)や、写真共有アプリ「インスタグラム」、動画投稿サイト「ユーチューブ」で紹介している。
南さんは「交換を重ねるにつれて、値段が付けられないものになった。自分と物々交換したからこそ手に入ると相手に感じてもらえるのが今のやりがい」としつつ、「アップルから『交換して』とお願いされるほどの何かを持つ人に出会えるまで、続けていきたい」と話す。