愛知県で2017年に当時19歳だった実の娘に性的暴行を加えた準強制性交等罪で逮捕、起訴された被告の父親(50)が名古屋高裁での控訴審判決で懲役10年の逆転有罪となったことを受け、元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は20日、当サイトの取材に対し、高裁の判決を評価しつつ、一審の無罪判決を批判した。さらに、今回の有罪判決を不服として最高裁に上告した被告の父親に苦言を呈した。
名古屋地裁岡崎支部の一審判決では、父親が小学生当時から娘を暴力的に虐待し、中学2年生の頃から性的行為を始めたことなどを認めた上で、「抗拒(こうきょ)不能」の状態とは認定できないとして無罪となった。だが、12日の高裁では抗拒不能の状態を認めて一審判決を破棄し、求刑通り懲役10年が言い渡された。
裁判の焦点となった「抗拒不能」とは何か。小川氏は「身体的、心理的に抵抗することが著しく困難な状態。例えば薬物や酒を飲まされたり、だまされるなどして体や心の自由を奪われることを抗拒不能の状態と言います」と解説した。
その上で、小川氏は「高裁では『実の父親が娘を性欲のはけ口にしていた』といった言葉も出ており、今回の高裁判決は評価したい。もっと判決が重くてもいい衝撃的な事件です。ところが、一審はそれを認めないという、おかしな判決で私はびっくりしました。これが有罪にならないのなら、何をもって有罪にできるのか」と首を傾げた。
さらに、小川氏は被害者女性の思いにも触れた。「娘さんは父の有罪判決が出た後で報道関係者にコメントを出しています。(告訴したことで)周りから批判されたり、いろんなことを言われたり、直接でないにしても聞こえてきたそうです。『どこかに逃げられたのではないのか』『誰かに相談できたのではないのか』と。彼女は『友達にも、こんなことを相談できるわけない』と言っていました。そして『自分が何をされても人形のように何の感情もなく、されるがままだった。そして行為の後、必ず涙が自然に出ていた。まだ涙が出るだけ、自分には感情があるんだ』と思っていたそうです」と、つらい思いを代弁した。
昨年、性暴力被害者らが国に刑法改正を求める署名を提出し、デモが広がった。小川氏は「一審での無罪判決後、全国各地でいろんな運動が立ち上がり、デモもありました。そういった被害者はたくさんいるのです。この事件は絶対に風化させてはいけない。被害女性は『これまでやりたかったことが何もできなかった』と話していました。これから幸せな人生を歩んでほしい」と気遣った。
一方で、小川氏は「被告の父親は有罪判決の2日後、最高裁に上告しました。もちろん、被告に与えられた権利ではあるが、父親として娘に対して本当に反省している気持ちがあるのなら、上告などせず高裁の判決に従って服役して反省すべきだと私は思います」と訴えた。