179分という数字だけで見ると確かに躊躇を覚えるが、一度イスに座ったら最後。頭の先からつま先まで、大林監督の映画愛に包まれる至福の時となる。どこを切っても大林監督の刻印があり、怒涛のテンポはマーティン・スコセッシ監督による209分の『アイリッシュマン』に勝るとも劣らない。
「3時間のものができました、契約通りに2時間に編集し直しましょう、と言われても僕には切ることはできません。作品自体が人間の体の細胞のように出来上がっていて、不要だと思うシーンを切ったとしても、どこかバランスがおかしくなる。大林さんが好き放題やった結果生まれた理屈の超え具合も凄くいい感じなんです」と大林宣彦という才能に畏敬の念を抱いている。
2018年に広島を中心に行われた撮影では、同じように大林監督に畏敬の念を抱く面々が陣中見舞いに訪れたという。「見事なまでの復活を遂げた大林さんはもはや神様みたいで、山田洋次監督、行定勲監督、塚本晋也監督、犬童一心監督、手塚眞監督ら沢山の方が激賞に来てくれました」と明かし「大林監督自身も打ち合わせの際は車椅子だったのに、広島ロケの際は杖で歩いて、撮影半ばでは普通に歩いていました。広島の撮影では誰よりも元気でした」と映画の持つ不可思議な力を奥山氏も感じたようだ。
奥山氏は「大林さんに『映画を作ってきた僕の歴史の中で、最も伸び伸びと最も楽しく好き勝手にできた』と言ってもらえたらいいなと、ただひたすらそれだけです」と本作への想いを口にする。
“映像の魔術師”と“レジェンダリープロデューサー”の初タッグ作には、映画本来の持つ自由さと力強さが溢れている。遺作とは思えぬパワフルな大林ワールドを大きなスクリーンで堪能しながら、惜しまれつつこの世を去った大林監督を追悼したい。