大阪駅の人混みから抜けて15分ほど歩いた先の中津に、変わった本屋がある。一見古びた家屋、ドアの前に設置されたポップなデザインの雑誌が置かれたラック。その2階建ての建物の上階には、なにやら個性的な雑誌がぎっしりと並んでいる。「新潟の古本屋による」「名古屋の大学生のためのメディア」「アイドル紹介」「関西の音大生」などと様々なカテゴライズのものがあり、店内のスタッフは「どうぞご自由にお持ち帰りください」と声をかける。
ここは、「ローカルメディア&シェア本棚 はっち」だ。1階には各古書店が一定のスペースを借りて販売する「シェア本棚」、2階には持ち帰り自由のフリーペーパー(=ローカルメディア)が200種類設置されている。
同店は2015年にオープン。平日の20時から営業されており、実際にフリーペーパーを発行しているクリエイターや、デザインや出版業従事者、また通りがかりなどの多くの人が集う。
同店を運営しているのは、一般社団法人ワオンプロジェクトの田中冬一郎さん。イベント運営を行ってきたところ、あるとき知人に「ある部屋を借りているから、何かしてくれないか」と声をかけられたことがオープンのきっかけとなった。
「そこでキーとなったのが、かつてのフリーペーパー制作の経験でした。発行当時、設置場所の少なさに悩んでいたことがアイデアとなり、その場づくりをしようと。『フリーペーパーだらけの店もおもしろいかな』と思ったんです」
田中さんが考えるフリーペーパーの魅力は、「健全さ」。
「もちろんマスメディアの存在も大切です。しかし、個人発信のメディアにしかない時代の反映のされ方や、その空気感が健全だと思うんです」
田中さんは、「その魅力を既存の書店でサポートすることは厳しい」と話す。「これは、利益を追求していない僕だからできること。フリーペーパーは、クーポン券付きの商業用になれない雑誌、と思われがちですが、それ以上の良さがあります。フリーペーパーで本屋を作れるんだ、という付加価値を生み出したいんです」
そんな田中さんに、おすすめのフリーペーパーを3つ選んでもらった。
ラブホ図鑑
第1号は大阪編、第2号は中国地方編で発行。女性による制作が行われているので、特有の目線でラブホテルが紹介されている。丁寧な取材に基づいた情報が、かわいらしいデザインで取り上げられているのが印象的。
夕焼けアパート
観光情報などで紹介されていない沖縄の歴史や住民を取り上げる。田中さんは、「追体験のように読ませる文章が魅力的なんです」と語る。
うつわのおと
小石原焼の「やまぜん窯」の「ヨメ」が発行している。手書きの字が柔らかく、田中さんは「読んでいて心地よいです」と絶賛。
「これらの情報は、マスメディアで優先的に取り上げられるようなものではありせんよね」と言う田中さんは、フリーペーパーへの思いをこう語る。
「でもこれらを読んでいるうちに、いかに僕たちは効率よく情報を得ようとしているのか、気づかされるんです。お得なわけでもないし、特別美しいものでもない。そんな『ノイズ』が、僕は好きなんです」