シンガー・ソングライターの槙原敬之容疑者(50)が覚せい剤取締法違反(所持)と医薬品医療機器法違反(所持)の疑いで警視庁組織犯罪対策5課に逮捕された。音楽業界での成功だけでなく、学校の教科書にも作品が取り上げられるほど、教育界などでも社会的にも認知された存在だっただけに衝撃は大きい。長年にわたり、ドラッグに依存する人たちと向かい合ってきた「夜回り先生」こと教育家の水谷修氏は、槇原容疑者の逮捕を通して、そもそもドラッグとは何かという根本的な部分を問うた。
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槇原敬之容疑者が、2年前に覚せい剤等を所持していた容疑で逮捕されました。2度目の逮捕です。日本中に衝撃が走り、各テレビ局は、その対応に追われました。また、彼の曲は、高等学校の「音楽」の教科書や小学校「道徳」の教科書にも使用されています。今各出版社は、その対応に頭を抱えています。
彼についての報道を見ていて、気づいたことがあります。それは、ほとんどの人たちが、ドラッグの本当の姿を知らないと言うことです。今回は、それを書いてみます。
ドラッグ、これは、たった二つのことばで簡単に定義できます。一つは、「やると止められないもの」つまり、「依存性物質」であるということです。もう一つは、「やると捕まるもの」つまり、「違法物質」であるということです。
このドラッグの依存性は、半端なものではありません。ドラッグ、特に覚せい剤や危険ドラッグは、その1回目の使用から、強烈な快感をもたらします。そして、その体験が、使用者の脳の記憶中枢の中にすりこまれてしまいます。
私には、ドラッグ乱用から回復途上にあるたくさんの仲間たちがいます。彼らは、常に1人になることはなく、仲間たちとともに行動し、お互いを監視し、ともかく「今日一日」をドラッグから離れて生きようとしています。この戦いは、生きている限り永遠に続きます。私たち、ドラッグの専門家の間では、1度でもドラッグを乱用した人の中で、逮捕や精神病院への入院、自助グループとの連携等で、その魔の手から抜け出すことができる人は、6割程度だと、推定されています。残りの4割は、死に至るまで乱用を続けていきます。
また、ドラッグが、違法とされているのは、当然その乱用によって、犯罪が誘発されたり、乱用者自身が死に至ることを止めるためですが、それ以上に忘れてはいけないことは、ドラッグの密輸、密売には、当然反社会的勢力が深く関わっており、その資金源になっていることです。
槇原容疑者には、ぜひドラッグの売人や一緒に乱用していたすべての人についての情報を司法当局に話して、そして罪を償って欲しいと考えています。そして、まずは自分の周りをきれいにして、私たち専門家や自助グループの助けを求めて欲しいです。
今、東京オリンピックに向けて、覚せい剤のみならず、コカイン等までたくさんの違法ドラッグが、日本へと運ばれてきています。すべては、彼が、すべての事実をきちんと話すことができるかにかかっています。当然、彼の未来もです。