バレンタインデー(2月14日)に女性から意中の男性にチョコレートを贈るという風習が一般化した1970年代以降、「義理チョコ」という日本特有の文化も広まったが、近年、異変が起きている。令和最初のバレンタイン商戦において、昭和の名残である義理チョコはどのように変わったのだろうか。「本番」を前にその一例をリポートする。
JR東京駅構内では、期間限定の「ブラックサンダー義理チョコショップ」(1月31日~2月17日)で、1箱3000円(税抜)という「至高の生ブラックサンダー」が連日完売している。ココアクッキーの上にガナッシュ(生チョコ)が乗った「具」をチョコでコーティングしたスティック状の2本1セットの箱入り商品だ。当日分で100個前後を用意して午前10時から販売。完売時間帯は初日が午後3時前だったが、昼頃にスピードアップしているという。
ブラックサンダーは準チョコレート菓子として有楽製菓が94年に発売。ココア風味のクランチをチョコレートでコーティングし、1本30円という安価で人気商品となった。今回はその100倍となる価格でありながら、支持される要因はどこにあるのか。
有楽製菓マーケティング戦略部コミュニケーション戦略課の東山満春さんは「生ブラックサンダー自体は以前から1000円前後で販売していたのですが、25周年でサイズアップし、6センチ弱の長さが12センチ以上になりました。カカオの産地にこだわり、ガーナ産とトリニダード・トバゴ産の2種類を1セットにして3000円。高級感を追求したわけではなく、おいしさを追求した結果、この価格になりました。昨年11月にクラウドファンディングで先行発売したところ、通常商品の約100倍の価格設定にも関わらず、販売開始4時間で500セットを完売しました」と経緯を説明した。
実際に食べてみた。ガーナ産は食べ慣れた安定感のある味だったが、トリニダード・トバゴ産はかんだ瞬間に独特のクセと香りが鼻に抜ける。業界では「スパイシー」と表現するそうだ。東山さんは「1本が600キロカロリー以上。1本を丸かじりするファンの方、チーズのようにカットして酒のつまみにする人などがおられます」と付け加えた。
しかし、3000円なら「本命」でもいいのではないか。野暮な話ではあるが、金銭面からそんな発想をしてしまう。東山さんは「別のメーカーさんでは本命でも1000円前後という商品がありますが、こちらは義理でも3000円…という逆転現象。『究極の義理チョコ』と名付けた通り、お世話になっている目上の方などへの贈答用として、そん色のない商品だと思っています。価格的に社会人の大人の方が購買層になっていると思います」と解説。つまり、お中元やお歳暮と同じ感覚で、バレンタインデーという年中行事における贈答品になっているのだ。
さらに、東山さんは「SNSではブラックサンダーのファンが自分のために買っているという投稿も見られました。そうした自分へのご褒美として、また、男性が女性へのプレゼントにしているというケースもあります」と当節のバレンタイン事情を明かした。
確かに、気が付くと、義理チョコの「マスト感」や「同調圧力」は希薄になりつつある。近年、例えば会社などにおいて、女性社員や出入りする女性らが男性に片っ端からチョコを配るような光景は見られなくなった。
生ブラックサンダーを通し、バレンタインチョコに関する3つの要素が見えてきた。(1)もはや「義理」という表現ではなく、大人の「贈答品」という解釈になっていること。(2)「女性→男性」の図式だけではないこと。男女問わず世話になった人への、あるいは自分へのプレゼントでもいい。(3)「値段ではない」ということ。3000円の贈答品がある一方、たとえ30円のチョコでも、思いが込められていれば「本命」になる。
多様化したバレンタインデー。それぞれのチョコがあっていい。