野良猫のみこちゃんは、以前、3匹の子猫を連れて石井さん宅に現れた。石井さんは子猫たちを保護して飼っていたが、みこちゃんの行方は分からなかった。ところが、1年半後、みこちゃんは再び妊娠して現れた。
二度目の妊娠
2011年11月、1匹のお母さん猫が3匹の子猫を連れて千葉県に住む石井さんが暮らしていたマンションのベランダにやってくるようになった。ベランダにごはんを置くと食べにくるが、窓の鍵を開けようとしたり、人の気配を感じると逃げて行った。母猫は、3、4回姿を見せたが、どこかに消えて、子猫たちだけがやってくるようになった。石井さんは子猫たちを捕獲し、ごまくん、きびくん、みたらしくんという名前を付けて飼っていた。
1年半後、突然、母猫が現れた。お腹が大きくて、妊娠しているのが分かった。
「これは大変!放っておいては何度も妊娠してしまうと思いました」
子猫はあきらめたらどうですか
石井さんは大きめのケージを庭に設置して扉に紐をつけ、母猫が入ったら紐を引っ張って扉が閉まるようにした。最初は短い紐をつけてケージの近くで待機していたが、人の姿が見えたので、6時間経っても現れなかった。長い紐にして家の中に隠れると、あっという間に捕獲作戦は成功した。
母猫はケージの中でシャー、ニャー!と叫びながら暴れていた。ケージに入れたまま動物病院に行くと、石井さんが11匹の猫を飼っていることを知っていた獣医は、「まだすぐには生まれないし、子猫はあきらめたらどうですか」と言った。
石井さんは、どうしても堕胎させる決心ができなかった。
「お母さん猫との信頼関係が築けなくなる気がしました。里親を探すという選択肢もありましたし、もし里親が見つからなければ自分たちで飼えばいいと思いました」
無事出産
みこちゃんと名付けた母猫は、2日後、3匹の子猫を産んだ。思いのほか早く出産した。
石井さんが気付いた時、既に1匹産まれていた。人が近づくとストレスになると思い、石井さんは、別の部屋から静かに見守った。その後、2匹目が産まれ、夜になると3匹目が産まれた。みこちゃんは、子猫を産むたびにきれいになめてあげていた。
みこちゃんは野良猫だったので、人に対する警戒心が強く、子猫たちを石井さんから守ろうとした。リラックスして寝ていても、人が部屋に入ってくるとパッと起き上がり、子猫をたちをくわえて別のベッドに移動した。
ねずみのおもちゃをくわえて、子猫たちにエサの取り方を教えているようなこともあった。不思議なことに、みこちゃんがねずみのおもちゃをくわえてニャアニャア鳴くと、みこちゃんの子供だけが集まってきた。
「ちゃんとコミュニケーションしているんだなと思いました」
大事に育てられた子猫たち
みこちゃんは、子猫たちをとても可愛がって育てたが、2018年6月に亡くなった。男の子はつきみくん、2匹の女の子ははなみちゃん、ゆきみちゃんという。
野良猫だったみこちゃんが育てたので、だいぶ大きくなるまで人に子猫を触らせなかった。
「人懐っこい子がいいというのは人の都合だと思うんです。離乳した頃に母猫と離すと人懐っこい子になるそうですが、うちはみこたちが親子一緒にいることを優先したんです。うちで過ごす分にはそれでいいので」
石井さんは、ゆきみちゃんのひげが短いので、なぜなのか不思議だった。獣医によると「お母さん猫が手をかけている子は、よくグルーミングするので、ひげが短くなることがある」という。確かに、みこちゃんは、ゆきみちゃんのことを特に大事にしていた。
みこちゃんが亡くなると、3匹の猫と人との距離が短くなったそうだ。