元繁殖犬のふきちゃんが“自由”を手に入れたのは15歳(推定)になってからでした。昨年の夏、ブリーダー崩壊により、岡山・倉敷のボランティア団体がレスキューしたそうです。「自由を手に入れた」と表現したのは、繁殖犬は狭いケージの中で管理されることも多く、散歩に連れて行ってもらえないケースもあると聞くから。年齢を重ねて繁殖犬を引退した後、ふきちゃんがどのような生活をしていたかは分かりませんが、レスキューに入ったとき、かなり劣悪な環境だったようです。
ふきちゃんの家族になったのは、岡山市に住む山田敏子さん。動物愛護センターでのボランティア経験があり、今もふきちゃんの保護主『ケセラセラ岡山』さんや、亡き愛犬たちの保護主『岡山保護犬日記』さんと共に、保護犬の医療費に充てるためのチャリティーフリーマーケットに参加するなど、命を救う活動の後方支援を行っています。
山田さんはこれまでも10歳以上のシニア犬を積極的に引き取ってきました。
「18歳で亡くなった子の世話をしているとき、シニア犬っていいなと思ったんです。ゆったりした感じに癒されるというか。引き取り手が少ないというのもありますが、シニアといっても、超小型犬だと13歳くらいまではそんなに“シニア感”ないですよ。16歳くらいになるとガクンと来ますけど、ハイシニアの子たちの良さをもっと知ってほしいですね」(山田さん)
とはいえ、シニア犬は病気のリスクが高く、その年齢からではペット保険に入るのも難しい。看病、介護、看取り…そんな言葉と隣り合わせの生活になる上に、医療費などもかさみます。実際、山田家では昨年、飼っていた4頭中3頭が同時進行でガンになり、りりなちゃんを9月末に、きなりちゃんを11月初めに見送りました。
ふきちゃんを迎えたのは12月1日。周囲の人は心配したそうです。「2頭を看取ったばかりで、また15歳の子を迎えるのは…」。でも、山田さんの心はブレませんでした。りりなちゃんの四十九日を過ぎてからケセラセラ岡山に連絡し、家族になると決めました。
「一緒に暮らす時間は長くないかもしれませんが、それは関係ありません。それよりも、最後くらい名前をもらって、幸せになってほしいじゃないですか。ふきちゃんが『生まれてきてよかった』と思えるような、キラキラした毎日にしてあげたいんです」(山田さん)
きなりちゃんが最後に通院していた頃、ふきちゃんが同じ病院で大きな手術を乗り越えていた、というご縁もありました。レスキュー当時は元気そうに見えたふきちゃんですが、ある日突然、容態が急変。保護主さんが病院をはしごして手術してくれる先生を見つけ、卵巣腫瘍との診断でお腹を開くと…子宮破裂を起こしていたそうです。一時は危篤状態に陥り、病院に呼ばれた保護主さんは覚悟したと言いますが、見る見るうちに回復、復活を遂げたのでした。繁殖場で15年も暮らしていただけあって、生命力が強いのでしょう。
今は山田家の重鎮・16歳になるカブ君と、9歳のマーヤちゃん(いずれも推定)と一緒に暮らしています。マイペースで物おじしない性格のふきちゃんは、家に来た初日からカブ君に寄り添って寝ていたとか。もうすっかり家族の一員です。
「シニア犬はお世話が大変だと思われるかもしれませんが、元繁殖犬の子は歯がないことが多いからごはんをやわらかくしてあげるとか、シニア犬は暖かくしてあげるとか…それくらいですよ。一生の最後にかかわらせてもらえるのは幸せなこと。小さいお子さんがいるご家庭ほど、命の大切さを知る意味でも、シニア犬を迎えられたらいいんじゃないかと思いますね」(山田さん)
シニア犬の良さを知り尽くした山田さんのもと、ふきちゃんたちはキラキラとした毎日を過ごしています。