昨年、大学入試制度改革を巡って教育現場が混乱した。背景に政権と民間の教育産業との結びつきを指摘する声もあるが、いずれにせよ、当事者である受験生が置き去りになっている印象は否めない。教育家の水谷修氏は、この改革を問う以前に、経済的な負担を受験者の家庭に強(し)いる「受験料」に焦点を当て、入学者よりもはるかに多い「入学しなかった、できなかった人」たちからも徴収された受験料が「大学の運営資金」となっている不条理にメスを入れた。
入試改革制度は誰のため
現在、2021年から実施されることとなっている大学入試制度改革が、大きな問題となり、高校教育現場や高校生たちを混乱させています。この大学入試改革制度は、何のために、そして誰のために行われるのでしょうか。私は、受験生たちのためではないと確信しています。また、この改革を問う前に、問われなくてはならないことがあると考えています。
現在行われている大学入試制度では、国公立大学や一部の私立大学受験に必要なセンター試験の受験料は、1万8000円です(2科目以下の受験の場合は1万2000円)。そして、二次試験は、1万7000円です。また、私立大学の受験料は、おおむね3万5000円となっています。国公立大学2校受験の場合は、5万2000円、もし私立大学を4校受験すれば、それだけで14万円の費用が必要です。
この受験料は、何を根拠に決められているのでしょうか。独立行政法人大学入試センターの損益計算書を見る限り、膨大な外部委託費や賃借料、そして職員給与、旅費交通費など、カットしていけば、センター試験自体は数千円で実施可能です。
また、私立大学の受験料は、なぜ3万5000円もかかるのでしょう。私は、大学の教員ですから、そのからくりは知っています。ほとんどの大学にとって、入学試験はその収益の基盤となっています。入学できない生徒たちからも、大学の運営資金を取る。これは、許されることではありません。
地方受験を実施しない大学ならば、5000円以下で、地方都市での受験を実施する大学でも、1万円以内で実施可能です。まずは、ここを整理して、生徒たちの一生を左右する大学入試を大学や関係機関の一つの営利行為とするのではなく、実費でおこなうことにすべきです。みなさん、どうぞ、企業の入社試験を考えてみてください。入社試験で受験料を徴収する企業がありますか。
ましてや、今回国が行おうとしている大学入試制度改革は、英語の試験への民間の参入、他の教科での論文試験の実施など、さらに多額の費用負担を、受験生たちに強いることとなります。あってはならないことです。いったいだれが得するのでしょうか。
私は、大学入試に関しては、それぞれの大学が独自に、その大学での学習を求める生徒たちに対して行う、適性試験とすべきだと考えています。しかも、その受験料に関しては、それぞれの大学のかけた経費負担を求めるものとして。また、その経費について、国が負担することとなれば、受験生たちは、無料で受験することができます。これが、私は、この国の大学入試制度のあるべき姿だと確信しています。