困っている高齢者に声を掛けることができますか…「声掛け訓練」で身につけるセンスとスキル

 困っている様子の高齢者に「どうされましたか?」と、臆せず声を掛けることはできますか?街で気になる高齢者を見かけても、「声掛けなんて無理」「どうやって声を掛けるの?」「そんな勇気はない」と素通りせず、ちょっとした勇気と知識と経験で、人を助け、住む町を安全な場所にすることができます。その練習の機会が『高齢者等見守りSOS訓練』や『声掛け訓練』と呼ばれる訓練です。私は先日、姫路市内で行われた『高齢者等声掛け訓練』に参加しました。これは、認知症の方への声掛けの仕方を学ぶために、自治会を中心に、地域包括支援センターや社会福祉協議会、市役所が支援をしながら、地元の福祉医療専門職らの協力を得て開催されたものです。

 私は4年前に姫路市内で『高齢者等見守りSOS訓練』を2年間企画開催しました。当時は、行方不明者捜索声掛け訓練が行われ始めたところでしたが、実際に必要なのは日ごろに声を掛ける経験ではないかと考え、リハビリや介護職の有志を募り、地元の専門学校や企業の協力を得て行いました。その取り組みが、昨年、今年と市内の自治会主催の場につながっているのですが、特に今回は地域での工夫をされ、地域住民の皆さんの力で開催されていたことは、大変意味のあることだと思いました。

 認知症の方へ接する機会は、家族や親しい人に認知症の人がいない場合、仕事として接する機会を持たない人の場合は、なかなか経験できないことです。しかし、今後、街の中で「おや?」と思う機会は増えて来るでしょうし、「おや?」と思うセンスを身につけること、そして声を掛けるスキルを身につけることは、安心安全な地域社会づくりには大切です。

 訓練には300名以上の住民が参加され、グループに分かれて次々と認知症役の方へ声掛けを行い、その様子や困っている状態について、理学療法士等の認知症の支援についてよく知る専門職が助言を行っていました。

 認知症の人の役を演じるのも、地域住民です。四点杖(杖の先端が4本に分かれた体重をかけやすい杖)を横に、道端に座り込んでいる認知症役へ、参加者が恐る恐る声を掛けます。理学療法士がその様子を見て、「目線が合うようにしゃがみましょう」「前から視界に入って声を掛けることが大事です」と具体的な助言を行っています。周囲の参加者はその様子を見て学び、順番にチャレンジしていきました。

 また、参加者には見えていない子どもや動物が見えているという認知症役は、しきりに参加者に「あそこにいる子どもが、何も話さない。最近の子どもは・・・」とぼやいていました。レビー小体型認知症では、はっきりとしたモノの幻視がある場合があり、否定せずに接することを介護専門職が説明していました。

 疲れた様子でキョロキョロと不安そうに歩く女性は、観光に来て家族とはぐれてしまった役どころでした。声を掛けたあと、一人では解決できそうにない場合は、地域包括支援センターや警察、必要な場合には救急車の要請など、周囲の人と協力して安全に解決へつなげることも学びました。

 私たちが町の中で、表情や服装、身体状況や状態から、「おや?」と思う場合、勇気を出して声を掛けてみることは大切です。高齢者の場合、認知症があったり、視力や聴力が低下していたりする場合もあるので、分かりやすく、かつ、優しい声掛けができると、相手も安心できるでしょう。

 演じていた方に感想を聞くと、「難しかったけれど、認知症になった時の気持ちが想像できた」と感想が聞かれました。また、この地域では、小学校の授業に「認知症サポーター養成講座」を取り入れているとのことで、参加した児童は的確に配慮のある声掛けが行えていました。やはり知識を身につけて置くということは、実際に行う時にも役立つようです。

 最後に自治会長にお話を伺いましたが、地域が一つになれたことだけでなく、警察や消防とも一緒に訓練ができたことで、より一層結びつきと安心な地域になることを誇りに思っていらっしゃるとのことでした。また、この訓練の開催を支援した地域包括支援センターの管理者の最後の挨拶では、「認知症の人を見守れる地域は、災害が起こっても安心できる結びつきのある地域」とのことが印象的でした。

 厚生労働省ホームページの介護・高齢者福祉を見ると『高齢者が尊厳を保ちながら暮らし続けることができる社会の実現を目指して』との記載がありますが、そのような社会の実現は、短時間ではできません。現代社会には認知症や心身障害などの健康リスクだけでなく、災害リスクや社会情勢の影響があります。認知症になっても尊厳を保ち安心して暮らせる地域は、まさに、さまざまなリスクに対しても安心できる地域でしょう。地域で力を合わせて行う取り組みは、そんな地域社会の実現へ一歩一歩進んでいるのだと思う、声掛け訓練でした。

 最近では、自治体単位や自治会など、身近なところで開催されている声掛け訓練。是非、開催される際には足を運んでみてください。認知症支援はもちろん、地域の絆への気づきになること間違いありません。

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