市営地下鉄三宮駅の構内に、突如として出現したポップアップメニューのような「うわさ話」。電車を降りたとたん、壁や柱などに貼り付けられた白地のフキダシに青字で書かれた文字が次々目に飛び込んできます。思わず、どんどん読んでしまいますが…いったい、これって、誰が何の目的で「うわさ」しているんでしょう?
まずはいくつか気になる「うわさ」をあげていきましょう…
・「2020年6月1日~ 三宮~谷上の料金が280円になるらしいで。」
・「北神・新神戸トンネルを抜けると雪国だった。が起こるらしいよ…」
・「三宮~谷上駅間の所要時間は約10分らしいよ」「なんとそれは男子3000m競歩の世界記録とほぼ同じらしい」
・「2020年6月1日から谷上駅が日本一! 標高の高い地下鉄の駅になるらしいネ」「地下ちゃうやん」
・「北区から明石海峡が一望できる場所があるらしいよ」
などなど、関西人らしい、ボケとツッコミの作法も踏まえた楽しいうわさ話にクスッ。うわさ話のシールは駅構内から、駅のトイレ(トイレの男女のマークがうわさ話をしているよう!)、改札付近まで続いています。内容は「これ知っとう?」とでも言いたげな、ちょっとマニアックな神戸の地元情報から、日々の生活に役立ちそうなおトク情報まで。そしてうわさ話の下にはもれなく神戸市のマークと「KOBE うわさプロジェクト」の文字が。
そこで、神戸市に連絡をしてみると、謎のプロジェクトを立ち上げた張本人がいるとのこと。広報にかかわられている本田亙さんにお話を聞きました。神戸市広報課でさまざまなメディアを通じて市政情報を発信する仕事をされています。
―どうしてこんな「うわさ話」を始めたのでしょう。
「以前から、せっかく用意した施策が、それを必要としている市民に届いていないと感じることが多く、歯がゆさがありました」
「そんなときに『地域を変えるデザイン――コミュニティが元気になる30のアイデア』という単行本にデザイン都市・神戸についての文章を寄稿しました。他の事例を読み進めるうちに、山本耕一郎さんの「八戸のうわさ」プロジェクトに興味を持ちました。それが約10年前です」
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山本耕一郎さんはさまざまなアートプロジェクトに参加したのち、青森県東部に位置する八戸市南郷島守市に移住したコミュニティー・アーティスト。商店街を一店一店取材し、店主や従業員のプライベートや、お店でのお客さんのエピソードなどを「うわさ話」として書きこんだフキダシ型の黄色のポップを作成。これを店先に貼りつける「うわさプロジェクト」が注目を集めました。八戸のまちと人をつなぐ市民集団「まちぐみ」組長として活躍しつつ、全国でプロジェクトを進行中、といいます。
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「いつかはあの手法を使って行政の情報をやわらかく、無理のないかたちで市民の皆さんに伝えていけたらと思っていました。今年の4月から広報課に異動となり、念願の活動を開始するときが来たぞ、と」