人懐っこい子猫が車の周りをうろついていた。その姿を目にしたが、まさかタイヤの近くにいるとは思わず車を発進。スピードは出ていなかったが、子猫は重傷を負った。
子猫をひいてしまった!
沖縄県石垣島、サザンゲートブリッジを越えたところにある猫島にはたくさんの野良猫が暮らしていて、捨て猫も結構いるという。猫を捨てに来る人が後を絶たないのだ。
マリンショップを営む藤岡さんは、水上バイクの代車が壊れたので修理していて、作業の合間に野良猫のししおくんと遊んでいた。ししおくんは人懐っこくて、スタッフにもスリスリしてくるような子だった。
藤岡さんが車に乗って、出発しようとゆっくりアクセルを踏もうとした時、「ギャア」という猫の鳴き声が聞こえた。車のそばにししおくんがいたのは知っていたが、まさかタイヤの近くにいるとは思わなかった。
「窓を開けていたので大きな叫び声が聞こえました。すぐに車を停めて、見に行ったんです。右脚から後ろの左脚にかけて皮がべろんとはがれていました」
たった1軒の動物病院が受け入れてくれた
藤岡さんは、すぐに動物病院に駆け込んだ。しかし、どの病院も「野良猫だから」とか「今から手術をしないといけないから」「抱えているペットだけで手いっぱいだ」と受け入れてくれなかった。
1軒だけ、「手術が終わったら診てあげる」という病院があった。全身麻酔をかけて手術したからなのか、生後約3カ月だったししおくんは、手術が終わって3時間経っても目を覚まさなかった。
藤岡さんが「料金を払います」と言ったが、獣医師は「死んでしまったら料金はいらない」と受け取らず、一晩中ししおくんの容体を見守ってくれていた。藤岡さんが翌朝病院に行くと「起きましたよ」と言われた。獣医師は、「この後どうしますか?」と尋ね、「貰い手がいるなら譲渡して、見つからなければ猫島に持っていけばいい。保健所に連れて行くと処分されてしまうから」と言った。
パパの帰宅が待ち遠しくて
藤岡さんは、最初は里親さんを探したが、ケガが目立って里親さんを探そうにも探せなかった。
「下半身の毛を刈っていて、包帯でぐるぐる巻きの状態だったので、責任を取らないといけないと妻に相談し、うちで飼うことになったんです」
術後1週間くらいは脚がミッキーマウスの手のように腫れあがり、痛かったようで、ししおくんはぴょんぴょん跳ねまわっていた。痛みが取れても1か月くらいは、普通に歩けなかったという。尻尾もちぎれかけていたので、手術をした時に切ってしまった。お腹にいた寄生虫の治療も無事終わり、3カ月くらい経った頃、獣医師が「もうそんな頻繁に来なくていいよ」と言ってくれた。
藤岡さんが帰宅すると、ししおくんは必ず玄関まで走って迎えに来る。玄関には、留守番中にししおくんが遊んでいたおもちゃが散らばっている。
「帰ってきたら、すぐに遊べ、遊べと言うんです。寒い時は膝の上に乗ってくるし癒しになります。いまでは猫のいない生活なんて考えられません」