犬派のご主人、通い猫を保護して「犬派の猫好き」に

うちの福招きねこ〜西日本編〜

西松 宏 西松 宏

 和歌山市内にある1949年創業の「和歌山模型」は、実在の乗り物などを縮小したスケールモデルを数多く取り扱う模型販売店。店内には戦車、軍艦、飛行機、車などのプラモデルの箱が所狭しと積み上げられ、塗料や用具の品揃えも豊富だ。父の代から店を継いで40年あまり。店主の大北清貴さん(65)はずっと犬派だったが、3年前、茶トラの「小哲」(オス、推定3歳)を保護して飼い主になってからは「犬派の猫好き」になった。大北さんに小哲との出会いなどについて聞いた。

最初は追い返していた

 大北さん:3年前の10月ころ、店の前に商品を置く小棚があるんですが、夕方になると、どこからかこの子がやってきて、居心地がいいのか、毎晩のようにその棚の中に入るんですよ。しばらくは、あかんよと、来ては追い返すの繰り返しでした。

 ところが、1カ月ほど経ったある日、店の前の駐車場に行こうと道を渡ったとき、この子が後追いをしてきて、たまたますごい勢いで車が横切ったんです。「あっ、危ない!」と大声をあげると、この子はびっくりしてどこかへ行ってしまい、事なきを得たんですが、そのとき「もし朝、店に来たとき、この子が店の前でひかれてたりしたらお前のせいやで」と神様に言われたような気がしました。

 自宅にはトイプードルのリン(メス、6歳)がいますし、その前は雑種の柴犬・ジュン(享年15歳)を飼っていて、僕はずっと犬派。小さい頃から犬を飼いたかったけど、父親の許しが長い間おりなくて飼えなかったんです。ジュンは僕のところにやってきてくれた初めてのワンちゃんでした。

 ジュンとは15年間、いつも一緒でした。亡くなったときは、ペットロスで引きずらないように、使ってたもんを全部ゴミに出してね…。ひとつだけ記念にと、最後に使っていたリードを残したのですが、それは今リンが時々使ってます。リンは次男の嫁さんからその2年後に譲り受けました。

 それまで、猫を飼おうとは考えたこともなかったんです。でも、毎晩店にやってくるその子が健気で、だんだん放っておけなくなってねえ。家内に相談すると「あんたのお小遣いから飼育費用を引くんでよければかまへんで」との返事。それで保護して飼い始めました。そんな家内もリン同様に小哲を可愛がっています。名前は創業者である私の父・哲男が由来。小さい哲男で小哲にしました。

 自宅では小哲とリンはすごく仲良いというわけではないけれど、たまに一緒に寝たりしています。毎朝、僕は小哲を連れて店に出勤します。お客さんからは、「こんなにおとなしくて人懐こい猫は珍しい」とよく驚かれます。僕がプラモデルの塗装や組み立てなど細かい作業をしているときはそばで寝てるんですが、猫がいるとなぜか気分が落ち着きますね。今ではすっかり犬派の猫好きになってしまいました(笑)

 猫が苦手なお客さんが来たときは、店の奥から出さないようにしています。でも、小哲を飼い始めて一番思ったんは、猫好きってけっこう多いんやなあということ。大阪から月1回、わざわざ小哲に会うために仕事を作ってやってきて、うちでまとめ買いをしてくれる方や、小哲の体に顔をうずめ、しばらく動かない方もおられます。そんなとき、小哲はいつもじっとされるがままです。

 模型屋って男性客が圧倒的に多いんですが、女性客もよく来てくれるようになりました。以前はご夫婦でおみえになっても、旦那さんが買い物をしている間、奥さんは車で待ってることが多かったんですが、この子が来てから、奥さんも小哲に会うため店に入ってこられるようになって、「気兼ねなく買い物ができるようになったわ」と喜ぶ旦那さんも少なくないんです。

 プラモデルって、通販で買っても大型店で買っても中身は同じ。お客さんからすれば、「中身が一緒なんやったらちょっとでも安い方がええやん」と思うのは当然です。でも、僕はこの商売してていつも心がけてるんは、”俺を買(こ)うてくれ”ということ。

 「この戦車、どの色に塗ったらええ?」とか何かを尋ねられたとき、それに対して的確なアドバイスができるよう、いつも努めています。どうしたらもっとええもんができるか、とことん語りあったりね。よく喋りすぎやっていわれることもあるんやけど、お客さんとはそんな人と人との繋がりを大事にしながら、モノとお金の交換だけやない関係でいたい。そこに小哲もいて、猫好きが喜んでくれたら嬉しい。お客さんが「ありがとな、今日も元気もろたわ!」と笑顔で帰ってくれたら最高ですね。

【店名】和歌山模型
【住所】和歌山市北新5丁目20
【電話】073-423-1637

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