父親の背中は、幼少期から撮影現場やスクリーンの中で見てきた。そして自らも俳優の道を歩んでいる。祖父は三國連太郎、父親は佐藤浩市。俳優の寛 一 郎(23)を語るとき、日本映画界を代表する二人の偉人の名前がどうしたって出てくる。「家族ですから、自分が俳優をやっていなくても尊敬していただろうし、僕が俳優を始めたからこそリスペクトするようになった部分もあります」と称えるが、単なる憧れや世襲意識から同じ道を選んだわけではない。俳優生活2年目にして早くも演じざるを得ない理由を、寛 一 郎は感じている。
父親譲りの気骨ある目力に加えて、内面に隠された陰りがミステリアスなムードを作り上げている。その一方で少年のようによく笑い、表情も豊かで物腰も柔らか。そのギャップがいい。「幼少期は今とは違って顔も小さかったし、顔のパーツが中心に寄っていたので色々な人から『可愛い!可愛い!』と言われていました。自分としては男だから『カッコいい!』に憧れがあって、当時は凄くイヤでした。それもあってか途中からは人見知りみたいになっていました」と多感な思春期を思い返す。
歳を重ねていく過程の中で「両親の性格をバランスよく受け継いでいると思う一方で、内面や表情は父親に近づいたと随所で実感するようになりました。嫌いなモノや苦手なものが全く一緒ですし。僕も親父も納豆が食べられません」と笑いつつ「親父は理想が高くて、僕なんかよりも一歩先を考えているけれど、負けず嫌いなところや反骨精神は似ている」と父親似を自認している。
演技初挑戦となった俳優デビュー映画『菊とギロチン』(2018)から大きな注目を浴び、様々な映画賞でその名前が取りざたされた。10月4日公開の主演映画『下忍 赤い影』では、忍者組織の最下層・下忍の末裔である竜役で、時代劇&アクションに初挑戦している。
「石の上にも3年」も間近。経験を積んで“佐藤浩市の息子”から“俳優の寛 一 郎”へ。正念場と心得ているからこそ「どんな役でもほかの俳優の方とは同じにならないと思うし、負けないと思う。『この人には勝てない…』と思ったことも一度もない」と攻めの姿勢でいる。
好戦的に聞こえる言葉だが、それは俳優業を少しでも長く続けたいという願いがあるからだ。「俳優になる前は毎日が退屈で、不謹慎ですが『いつ死んだっていいや!』と思っていました」と打ち明けながら「でも役を演じて撮影現場に立ってみると、生きていていいと肯定されたような気持ちになりました。役を通して感じて考えて、自分を知るというか。それが面白いし、僕はこの仕事でしか生きていけないと感じる」。強気な姿勢も今の状況を手放したくないからこそ。負けるわけにはいかない。