和歌山県田辺市は13日、「紀州のドン・ファン」と称された資産家で昨年5月に急性覚醒剤中毒で死亡し、県警が不審死として捜査を続けている同市の酒類販売会社の元社長、野崎幸助さん=当時(77)=の遺言に基づき、遺産の寄付を受ける方針を決めたと発表した。元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏はこの日、当サイトの取材に対し、野崎さんが死亡した時に自宅にいた55歳年下の妻と60代の家政婦は今年に入っても警察の事情聴取を受けていたなど警察の捜査が続いていることや、野崎さんの兄弟からは遺言書を無効とする声があることを明かした。
田辺市によると、昨年8月9日に、野崎さんが自身の全財産を田辺市に寄付する旨を手書きで記した遺言書が和歌山家裁田辺支部から届き、遺言書の内容や遺産額の調査を進めた結果、負債額を差し引いても約13億円あることが判明した。同市は「法的効力がある」と判断し、この日の会見で「市民全体の利益を考え遺贈を受ける方針を固めました」とし、手続き費用を含む一般会計補正予算案も発表。同市の調査によると、野崎氏の資産は少なくとも13億2000万円にのぼるという。
ただ、寄付額はまだ定まっていない。民法では「遺言が有効」とみなされても、妻には遺産の一部を相続する権利がある。遺産の全額を13億円とした場合、妻が遺留分減殺請求をすれば2分の1の6億5000万円を田辺市と分け合うことになる。市は今後、妻側と協議する方針という。
小川氏は「相続について、亡くなった事情がどうであれ、通常なら数カ月で相続されてもおかしくない。今回の場合、一番の問題は遺産額がゼロになる可能性の人がいるということ。普通の相続でいけば野崎さんのご兄弟が25%受け取れるが、遺言が有効ならゼロになる。今、弁護士が入って協議しており、ご兄弟側の方等が『遺言状の効力』に関して話をしていると聞きました」と状況を説明。この遺言書が無効となれば、兄弟には「決定相続分」として、総額が13億円の場合は4分の1の3億2500万円(妻には4分の3の9億7500万円)が入る。だが、遺言状が有効の場合なら0円だ。
一方、他殺か自殺か事故死か、いまだに判明していない死因や覚醒剤のルートなど、捜査はその後、進展があるのだろうか。
小川氏は「警察は今も捜査を進めています。今年7月に再度、田辺市内の自宅で家宅捜索をして食器類や鍋などを押収しています。8月には、家政婦さんが再度、都内の警察署で3日間連続で事情聴取され、奥さんも同月に田辺署に呼ばれて数時間にわたって事情聴取されたと聞いています」と指摘。複雑な遺産の行方とともに、不審死の真相究明にはまだ時間を要するのかもしれない。