即応予備自衛官という「生き方」…辞めたはずの自衛隊の訓練になぜ行くのか?

平藤 清刀 平藤 清刀
応募資格と階級に応じた役職の一例
応募資格と階級に応じた役職の一例

自分は平成12(2000)年に予備自衛官から即応予備自衛官に採用され、平成27(2015)年に定年で再び予備自衛官になった。

即応予備自衛官をやっていた頃、一緒に酒を飲むと絡んでくる人がいた。同じ仕事をしている先輩で、一般の人である。いつもそうとう酔っているから、ご本人は憶えていないだろう。

「なんで自衛隊に行くねん?」

「またか…」

自分が即応予備自衛官であることが気に入らないらしい。

「誰かがやらねばならないことですから」と、ある種の“模範解答”で黙らせようとしたが、酒の勢いもあって引き下がらない。

「お前が行かなくてもいいじゃないか」ときた。

そう、自分が行かなくても他の誰かがやるだろう。でも、人生の一時期「事に望んでは危険を顧みず」という一文の入った宣誓をして、ときには命の危険さえ感じる訓練をやって身に付けた知識や技能がある。それを再び役立てる機会を与えられたと思えば、拒む理由はないと思いますよ――と返したら「はぁーっ」と呆れたようなため息をついて、やっとおとなしくなってくれた。

今の制度で即応予備自衛官に志願できるのは、自衛隊に1年以上の勤務経験があるOB・OGだけだ。且つ2等陸尉以下の階級で、51歳未満の者(2等陸曹~1等陸士は50歳未満)となっている。階級を2等陸尉以下に設定している理由は、明確に説明を受けたことはないけれど「小隊長ぐらいまででいいかな」ということなのだろうと、勝手に解釈している。2等陸士の採用を想定していないのは、1年以上勤務したら必ず1等陸士になっているからだ。

2年または4年の任期を務めあげて陸士長で退職した者が圧倒的に多いが、陸曹になってから依願退職したり、任期を満了する前に何らかの事情で退職したりした者もいる。

よく訊かれるのは「辞めたはずの自衛隊の訓練に、なぜ行くのか?」ということ。年にわずか5日間の訓練出頭でさえ職場や同僚に気を遣い、休日をやりくりしていた面々が、すき好んで30日も訓練をやる即応予備自衛官を志願する。

即応予備自衛官に採用されたら、予備自衛官をやっていたとき以上に仕事のやりくりが大変になるし、家庭も犠牲にせざるを得なくなる。しかも有事の際には一線部隊として前線に投入されることが分かっているにもかかわらず、わざわざ茨の道を選択する理由は何だろう。

任期満了で退職する理由は、まさに人それぞれ。自衛隊より娑婆に自分の可能性を見出したり、家業を継ぐ必要に迫られたり、集団生活になじめない者もいる。個々の事情は様々だ。共通しているのは「自衛隊がイヤになったのではない」ということ。そして「いざ鎌倉」の事態が起こったときは、何か役に立ちたいという想いを抱いているのだ。

皆ふだんは娑婆で自分の生活と仕事をもっている。それを「生業(なりわい)」と呼ぶなら、予備とはいえ自衛隊員であることは「生き方」といっていいのではないだろうか。

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