東京新聞・望月記者に象徴される「新しい戦い方」とは 映画「新聞記者」28日公開

黒川 裕生 黒川 裕生

 菅義偉官房長官の定例会見などで注目される東京新聞社会部の望月衣塑子記者。彼女の著書「新聞記者」(2017年)を原案とする映画「新聞記者」が28日から公開されるのを前に、望月記者、元文部科学事務次官の前川喜平氏、新聞労連の南彰委員長の3人にインタビューした。今回はその後編をお届けする。

 前川「そろそろ映画の話に戻りましょうか。この映画には、役人もずいぶん出てきます。私は国家公務員の人にも見てほしいと思っています。なぜなら、ここでは国家公務員の生きざまが描かれているから。それこそ、アイヒマン(ナチス政権下でユダヤ人虐殺に関わった責任者の一人)のような人もいれば、何も考えていない人もいる。実は霞が関の役人の大半はそういう『何も考えていない人』だったりするのですが。そして杉原(松坂桃李)は最後は自分の正義感に目覚め、不正を告発する側に回るんだけど、最後の最後でどうなるか。そこで苦悩するわけ。実社会でも、今は霞が関の特に幹部公務員が総アイヒマン化している。もはや思考停止に陥っていて、どんなことを言われても『分かりました』と従ってしまう。でももう一度、自分の中の正義感や良心を呼び覚ましてみなさいよ、と、そういう映画だと思います」

 ―話は変わりますが、南さんは、望月さんという記者をどういう存在だと考えていますか。

南「記者としてどういうことをやるべきなのかという原点を問いかけている存在。今までは『取材対象と仲良くして情報を取る』というのが政治部記者のモデルだった。しかし、これまで以上に官邸に権力が集中している今、記者も新しい戦い方を考えなくちゃいけない。会見の様子や取材過程など、全てが可視化されている中で、国民の信頼をどう獲得していくか。望月さんが万能だとは言いませんし、望月さんと同じやり方である必要はありませんが、彼女はひとつのモデルを提示していると思います」

 ―では最後に望月さん。「記者」がこれほど表舞台に立つというのはあまり例がないと思います。ご自身の立場、役割をどのように考えていますか。

 望月「確かに本来、記者は裏方ですよね。会見で目立ったことで、結果的に、こういう記者がいると注目され、講演を頼まれて外に出たりするようになりました。これまでの記者像とはちょっと違うんだろうなとは思います。話は少し逸れますが、小さい頃やっていたお芝居の世界で、声の出し方を鍛えられました。警察回り時代は疎ましがられたけど、講演をするようになった今は、分かりやすく伝えるという意味でも経験がすごく生かされていると感じます。政治や(長年取材テーマにしている)武器輸出の話はどうしても暗くなりがちだけど、それをいかに多くの人に面白く見てもらい、考えてもらえるか、ということです」

 前川「望月さんの声はねえ、一大エンタテインメントなのよ」

 望月「やっぱり新聞だけでは今の若い人たちに届きません。今回のような映画という形だと、私の本や東京新聞の読者ではない層に届くかもしれない。他にもラジオなど、求めてくれる人がいるなら、なるべくいろんな形、いろんな場で伝えていきたいと思っています。会見がいつものように『問題ない』『関係ない』で終わると、新聞記事としては『コメントが取れていないから使えない』となりますが、見ていた人がそれを文字起こししてTwitterなどで『今日もこんな回答しかしていない』と発信してくれれば、それは違う形で情報として生きているわけです。これまでの新聞記者の発信のやり方とは違うツールを使いながら、いろんな人に伝えていく場を持てる時代になりました。そうなると今後は、やれ読売だ、朝日だ、東京だ、ではなくて、その記者個人が何を考え、何に問題意識を持ち、どんなことを報じているのかという、より『個』が問われる時代になっていくのだと思います」

■映画「新聞記者」は6月28日(金)からなんばパークス、イオンシネマほか全国ロードショー

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