「このままじゃ、ダメになる」ママの叫び 「赤ちゃん先生」に救われる

広畑 千春 広畑 千春

 「このままじゃ、ダメになる。外に出ないと」。2カ月後、体調が戻った樽井さんは、出産後初めて電車に乗り、以前助産師に聞いたことがあった「赤ちゃん先生」の講座に出かけました。その後、6カ月になった長男と中学校を訪問。エコー写真を見せながら、これまでを思い出し泣いてしまった樽井さんの姿に、中学生たちも「何かを感じ取った様子だった」と振り返ります。そして2~3時間の授業の帰り道、車の後部座席でぐっすり眠る長男に「今日も二人で頑張れたね」と声を掛けては「私にも、できることがあった。すごく満たされた気持ちになった」といいます。

 仲間のママたちの存在も、大きなものでした。「〇〇ちゃんのママ」ではなく、名前で呼ばれ、子育ての悩みも「私も」と共感してくれる。かつての職場では、樽井さんがキャリアアップを望んでも無視されたり、「どうせ子どもが生まれたら辞めるんでしょ」と言われたりしていましたが、「悩んでいることも含めて、私という一人の人間を見てくれて、評価してくれているんだと思えた」と樽井さん。次第に積極的に発言するようになり、トレーナーとして地域の赤ちゃんママの活動をサポートする立場になりました。

振り返れば、薬剤師という仕事すら、本当は学校の先生になりたかったのに、父に言われて進んだ道でした。「ずっと、自分の人生が面白くなかった。でも、子どもと一緒に働き始めて全てが変わった。夢だった先生役にもなれたんです」と笑顔を見せます。

 そんな樽井さんは昨年、再び薬剤師として調剤薬局のパートを始めました。きっかけは、子育てでの薬の悩みでした。「子どもが病気になったとき、座薬をどこまで押し込んでいいか、どう切っていいのか。もらった薬を吐いたら飲み直した方がいいのか、分からないことばかりだった。でも、昔は『親ならできる』と思い込み、座薬の使い方も『熱が出たときに』と伝えるだけだった。ママの視点を、現役の薬剤師や学生さんたちに伝えられたら、もっと安心して薬を使えるようになるんじゃないか…って」

 「もう二度とすることもない、と思っていた薬剤師という仕事が、もう一度、自分の夢になった」と樽井さん。その笑顔はキラキラと輝いていました。

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