私は途方に暮れながらその説明をし終えて、「…ということなのですが、どうなさいますか?」とお聞きしたところ、中川さんは意外にもニッコリと微笑んでおっしゃいました。
「出来る限りの、最高の治療をしてください。放射線治療にも通います。」
通常、このような難しい状況になると、迷われる飼い主さんが多いのですが、あっさりと決断されました。そして、こうおっしゃいました。
「この子、100万円以上貯金があるんですよ!」
「?」
私がわからないというような顔をしていると、中川さんは話し始めました。
◇ ◇
実は、ジュンちゃんが家でひとりお留守番するときは「時給100円で警備のアルバイトをした」ことになっていました。お父さんが毎月ごとに「アルバイト時間」を計算し、ジュンちゃんの銀行口座に「お給料」を振り込んでいたというのです。ジュンちゃんは10歳を超えていたので、かなりの金額が貯まっていました。
昔は身元の確認できるものがなくとも銀行口座を簡単に作れたので、中川ジュンという名義で銀行口座を作っていたそうです。こうして、ジュンちゃんは、家族に気兼ねすることなく、自分の稼いだお金で「出来る限りの最高の治療」を受けることが出来ました。
…残念ながらその後、ジュンちゃんはそのがんが原因で亡くなってしまったのですが、私は今でも、ときどきジュンちゃんと中川さんのご家族のことを思い出します。
最近、ペットの医療保険というのがクローズアップされていますが、中川さんのようにご自分のペットのために月々貯金をする、という形でも良いと思うのです。
ほかの飼い主さんでも、家族で飼っておられるマルチーズのために、4人家族全員がひとり500円ずつ月々貯金されている方がおられました。10年後、手術をすることになりましたが、この積立貯金で十分支払うことが出来ました。