がんで苦しむ犬猫のために「それぞれに合った治療法を見つけたい」 東京農工大の院生、病理検査会社を開業へ

渡辺 晴子 渡辺 晴子

がんで苦しむ犬猫を少しでも多く救いたい――東京農工大学の大学院生が2月末から、犬猫に合ったがんの治療法を見つける病理検査会社「エアデック mini」を始めます。犬や猫も人間と同様高齢化に伴って死亡原因で最も多いのが「悪性腫瘍(がん)※1」といわれていることから、猫の乳がんをはじめとした犬猫のがんを診断し、適切な治療につなげていこうというのが目的です。同社では、全国各地の動物病院から犬猫の検体を送ってもらい、がんの有無を調べる病理診断を行うとともに、3次元培養を使った解析で抗がん剤に対する感受性を検査。それぞれの犬猫に合った薬剤を病院側に提案していくといいます。

大学院生で同社代表の山本晴さんは「がんと闘うわんちゃんやねこちゃんたちが、副作用が少なくて効果が高い最良の治療を受けられるよう、検査会社を立ち上げました。国内では初めての取り組みだと思います。クラウドファンティングで集まった支援金約100万円を事業の運転資金の一部に充てさせていただきながら、わんちゃんやねこちゃんのがん治療法の改善に結び付けていきたいです」と意気込みます。

検査会社の代表は博士課程1年生、猫の乳がんなど悪性度の高いがんの治療法が確立されていない…起業を決意

「エアデック mini」代表の山本さんは、同大農学府(東京都府中市)獣医薬理学研究博士課程1年生。小さいころから犬や猫など大の動物好き。今も柴犬を飼っているそうです。山本さんが所属する研究室では、人や動物のがん・生活習慣病の病態メカニズムの解明や早期診断マーカー、新規治療薬の開発に関する研究などを行っています。

 山本さんによると、犬猫のがんについては人のがん治療に比べて、研究開発費や犬猫のがんを専門とする研究者をはじめ、動物のがんの病態を再現できる実験モデルが少ないことなどから、十分な研究開発が進んでいないのが現状とのこと。そのため、猫の乳がんなど悪性度の高いがん治療についても、完治につながる有効な治療法がほとんど確立されていないそうです。

とはいえども、近年、少子高齢化社会やペット向け医療保険の普及によって犬猫などのペットを家族同然にかわいがり、高度な医療を希望する飼い主も年々増えており、より有効な治療法のニーズも高まってきているといいます。

そこで、山本さんはが犬猫に合ったがんの治療法を見つけるため、病理検査会社を起業することを決意。昨年秋から準備を進めてきました。起業にあたり事業資金を集めるため、12月からはクラウドファンティングで支援金を募ったところ、今年1月下旬には目標の100万円に達成。集まった支援金は、研究費や診断にかかる消耗品費 、人件費などの一部に充てるといいます。

猫の乳がん・犬の泌尿器がんの治療法から診断 どの抗がん剤が合うか…感受性を評価する

同社では、山本さんの研究テーマである「猫の乳がん(乳腺腫瘍)」をはじめ、犬の泌尿器がんの治療法を診断する検査から始めるそうです。

「猫の乳がんは悪性度も高く、また再発率も90%以上。そして転移もしやすい大変重大な病気です。もちろん犬の泌尿器がんも悪性度が高く、たくさんのわんちゃんたちが苦しんでいます」と山本さん。

今回、対象となる治療法は「がんの治療法は主に外科手術によるがん細胞の摘出(30万円〜50万円)や放射線治療(30万円〜50万円)などがありますが、その中でも最も安価とされる抗がん剤治療(10万円〜30万円程度)からスタート」といいます。

 山本さんは、現状の抗がん剤治療について「さまざまな治療メニューがあるものの、個々の動物ごとに薬剤に対する感受性の違いがあるため、どのメニューが患者動物のがんに効果があるのか、事前に予測することは難しいといわれています。

実際に抗がん剤を投与したとしても、効果はないのに激しい副作用が出てしまうことも…ピンポイントに治療法が分からないと、いろいろなものを試すこととなり、わんちゃんやねこちゃんたちの身体的負担とともに、飼い主さんの経済的負担も重くなる例が多々あります」と説明します。

そこで「当社では、がんの有無を診断する病理診断に加えて、がん細胞の3次元培養法を使った抗がん剤に対する感受性を評価する検査(in vitro解析※2)『ハイブリット病理診断』を行います。具体的には、検体からがん細胞の選別と培養を行い、抗がん剤処置時の生存率と薬剤濃度を測定し感受性を評価するものです。

この検査によって、どの薬剤がわんちゃんやねこちゃんたちの体に合っているかどうかが分かりますので、その検査結果を各動物病院にお伝えして、治療に役立ててもらおうと考えています」。

年内の目標は、動物病院の登録数100施設 将来的には「検査対象のがんの種類を増やしていきたい」

現在、2月末の開業に向けて、いくつかの大学病院と連携して試験的に無料で検査を実施。開業後は、他のスタッフ数人と協力しながら、会社を運営していくそうです。

年内の目標については「まずはSNSなどを通じて宣伝をして当社を知っていただくことと、当社に登録していただく動物病院を100施設まで増やしていきたい」と山本さん。将来的には「今は2種類のがんに限った検査ですが、さらに対応できるがんの種類を増やしていきたいです。同時に、対象の治療法も抗がん剤治療だけではなく放射線治療などにも広げていけたら」と話しています。

 山本さんは、昨年10月に大学院に入学したばかり。会社運営をしながら、ご自身のスキルアップにも努めていきたいそうです。

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※1 出典:日本アニマル倶楽部「犬・猫 死亡原因病気TOP10」

※2 in vitro(インビトロ):組織・細胞を用いて試験管内で生体内と同様の反応を行わせること。

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検査希望の動物病院は「エアデック mini」への登録を呼びかけています。登録開始は2月中旬、検体受付開始は2月下旬を予定です。問い合わせは、ホームページの問い合わせフォームから。

 ■クラウドファンティングのページ(新着情報を更新中)
https://readyfor.jp/projects/dog-cat-cancer

 ■「エアデック mini」のホームページ
http://airdec.jp/index.html

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