年の瀬になると「ふるさと」を思う。故郷を離れている間に、家族が離散し、風景や人の移ろいで喪失感を抱く人も少なくないだろうが、ただ懐かしむだけでなく、自身の原点に気づかせてくれる場でもあるはずだ。その場を獲得した1人の表現者に焦点を当て、この1年の歩みと新年にかける思いを聞いた。
牧村英里子、国際的に活躍するピアニストにしてパフォーマー。兵庫・明石に生まれ、神戸で育つ。京都市立芸術大・大学院からドイツ・ベルリンに留学し、デンマーク・コペンハーゲンで童話作家のアンデルセンが住んでいた家でコンサートサロンを経営した。昨年は欧州ツアーなどで年間30万キロ、地球約7周分を移動。「現住所・地球」という、さそり座の女である。
そんな牧村が明石に原点回帰するきっかけは昨夏、神戸公演後に幼なじみである神戸新聞の金山成美記者から手渡された一冊の本だった。連載記事をまとめた「あかし本」(ペンコム発行、神戸新聞明石総局編)。牧村は金山記者と共に、「まち」の魅力を音楽や演劇、舞踏などの要素を取り入れた総合芸術として表現する「コンサートパフォーマンス ときはいま」を企画。自ら出演し、水産など地場産業と一体化した舞台を作り上げた。