1988年に開業したが、その後の景気の後退や沿線住民の少子化・高齢化により乗降客数は減少の一途。トンネル区間がほとんどであることから建設費の償還負担も大きく、兵庫県・神戸市からの補助金がなければ存続が難しいのが現状だ。
通勤通学以外の利用客を増やそうにも、短距離路線で車窓の景色も楽しめない北神急行には売りにできるものがなく集客に苦慮。そんな中、2014年に生み出されたのが萌えキャラ・北神弓子だ。
SNSなどで積極的に情報発信した結果ファンも増え、他社のキャラクターとのコラボイベントを開催した際には約4000人が谷上駅を訪れたこともあったが、その年の最終的な乗降客数は前年割れ。キャラクターの力だけではなかなか人口減に対抗するのは難しい。 「地域の活性化なくして乗降客増は見込めない」
青木さんはそう考えている。
萌えキャラをPRに利用している鉄道事業者の中には自社で版権を所有していない会社もあるが、北神弓子は同社のオリジナルキャラ。そのためキャラ使用の自由度も高く、企業とのコラボ企画も実現しやすい。今回の『.me kitchen北神弓子カフェ』と『ノアココロン~リラクゼーション弓子』の主催はいずれも会場となる店舗を運営する地元企業。イベント限定グッズのデザインは北神急行が年間契約しているイラストレーターが手掛け、グッズ販売はそれぞれの企業が行っている。北神急行としては、イベントの運営やグッズ販売に人員をさく必要なく乗降客を増やせる。
『ノアココロン~リラクゼーション弓子』を主催するノアココロンは谷上駅近くに店舗を構えるリラクゼーションサロン。代表の豊嶋雅英さんは「毎日が文化祭のようで楽しい」と笑顔で話す。
「催事営業なので10分間のクイックメニューのみの提供ですが、これをきっかけに実店舗へ足を運んでくれるようになったお客様もいらっしゃいます。弓子ちゃんがたくさんの方との縁を繋いでくれました」
『.me kitchen北神弓子カフェ』の会場・ドットミーキッチンを運営するキュリオワークス株式会社社長の鈴木創さんによると、イベント中は普段の3倍以上の客が店を訪れているという。
以前は駅構内にファーストフード店も入っていたが数年前に閉店。他にはコンビニや小規模なスーパーぐらいしか店舗もなく、谷上駅の乗降客が増えたとしても提供できるサービスがほとんどなかった。「マッサージを受けたり、カフェで食事をしたあと店内のスケッチブックにイラストを描き残す北神弓子ファンを見ていると、やっと谷上駅にゆっくりできる場所ができたと感じます。いずれのイベントも期間限定ではありますが、今後もひとりひとりのファンを大切にしながら路線を存続させていきたい。ひいてはそれが地域の活性化にもつながれば」と青木さん。
「トンネルの向こうで待ってる。」という北神急行のキャッチフレーズどおり、トンネルの向こうの谷上駅では、今日も北神弓子ちゃんが人々の出会いを取り持っている。