外科医に伴う大いなる責任…“悲しい事故”は起こしてはいけない

町医者の医療・健康コラム

谷光 利昭 谷光 利昭
 病院の待合室。医者を頼ってくる患者の気持ちを忘れてはいけない
 病院の待合室。医者を頼ってくる患者の気持ちを忘れてはいけない

 素質とか器用さは、特に必要ないように思います。何より自分に関わった患者さんに迷惑をかけてはいけないという強い気持ちが必要だと思います。その気持ちがあれば、必然的に技術、知識の習得を怠らず、生身の体に立ち向かう胆力の養成も自然にできてくるのはないかと思うのです。絶対に負けられない“勝負”なのです。それは、術前に何回もシミレーションをして、絶対に失敗しないという万全の準備にもつながります。そこで初めて執刀できるのではないでしょうか。

 レジデントになったばかりの頃、尊敬する先輩の医師に「先生は今まで何人くらいの患者さんを手術して治してこられたんですか?」と何とも間抜けな質問をしました。「谷光君な。僕はね、患者さんを治したことなど一度もないんだよ。ただ、患者さんは治っていくんだよ。そのお手伝いをしているだけだよ」と、小学生に諭すように話をされたことを昨日のように覚えています。思えば、本当に未熟だったものです。

 時々、勘違いしている医師、特に外科医に多いのが「オレが治しているんだ!」と傲慢な気持ちを持った人です。こういうタイプの医師に私は執刀されたくありません。常に最悪の事態を想定して、最善の準備をする。そういう外科医に執刀されたいものです。

 闘う病気の状態をよく把握し、自分の力量、アシストしてくれる人の能力、病院の設備なども踏まえて総合的に判断すれば、巷で騒がれているような“悲しい事故”は起こらなかったはずです。どうして、このような悲しい事故が多発しているのにもかかわらず、同様の事故が続発して報道されるまでメスを置くことができなかったのか…。自分もそうならぬよう、深く戒めたいものです。

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